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2015年12月号

資本家と実業家の違い

近藤太香巳の情熱経営塾

パッションリーダーズとは? 近藤太香巳氏が主宰。起業家の応援組織として2011年4月に創設し、定例セミナーを毎月1回開催。人気のビジネスマッチング、アカデミー、すぐに参加できる様々な部会など、多彩なメニューで会員の積極的な成長をバックアップしている。東北、名古屋、大阪、四国、九州に支部を展開し、会員数は約3000人。http://www.passion-leaders.com/

若手経営者をゲストに迎え、ネクシィーズ社長の近藤太香巳氏が講師となって経営相談に答える、パッションリーダーズ×月刊BOSSのコラボ企画「近藤太香巳の熱血経営塾」。19歳で起業し、2004年に当時最年少創業社長として東証1部上場を果たした近藤氏は、まもなく社長歴30年。次世代の経営者たちに何を語り、伝えるのか。若手経営者必見の講義です。

第6回のテーマは経営編②「資本家と実業家の違い」です。ゲストは、エムズファクトリーの松田裕美社長とマインドピースの山下祐一郎社長です。

近藤 今回のゲストは、自ら起業した経営者として大変な行動力をもったお2人です。まずは事業内容からお聞きしたいと思います。

「例外」を獲れれば大きな優位性に繋がる

松田 私は手芸用のクラフトバンド(紙バンド)を販売しています。「米帯」という、農家がお米を出荷する際の紙袋を縛る頑丈な紙の紐で、カゴやバッグを編んでつくる手芸の素材に使っています。もともとは自分の趣味として習った手芸でした。手芸があまり得意ではない私でも30分くらいでバッグが作れてしまうのです。それをお姑さんやご近所に贈ると、とても喜んでくれました。これはすごいと思って、一生懸命編んでいました。

ところが、13年前に神奈川県の茅ヶ崎から千葉県に引っ越すと、材料が手に入らなくなり、編むのをやめていたのですが、ある時、千葉で知り合ったママ友から、私が使っていたバッグを自分も作ってみたいと。それがきっかけになって、茅ヶ崎の資材屋さんに材料を送ってもらい、近所で教えるようになったのです。すると田舎で趣味が限られていたせいか、公民館で300人も集まるようになりました。こんな田舎で流行るなら、日本全国ならもっと流行るだろうと仕入れ先を探そうとしたのです。現在ならインターネットで調べればわかるのでしょうが、知識がない私はNTTから全国のタウンページを送ってもらい、北海道から順番に製紙会社に1件ずつ電話をし、群馬あたりで、それは静岡で作っていることを教えてもらったのです。

当時の私はふつうの主婦で、3人目の赤ちゃんを抱えて、営業の仕方もわからないし、名刺も持っていない、アポイントが必要だということもわからない。レンタカーを借りて泣く赤ちゃんをおぶって、すべて飛び込みで静岡の製紙会社を回っていきました。ようやく紙バンドを作っている会社を見つけて、チラシの裏に住所と名前を書いて1万円札を出して、これで買えるだけ売ってくださいと。それが非常識だとも思っていませんでした。

米帯を「クラフトバンド」と命名し、ネットショップを作ることにしたのです。これが13年前に起業した経緯です。

近藤 いま売り上げはどれくらいになりましたか。

山下祐一郎 マインドピース社長
やました・ゆういちろう 1975年生まれ。99年早稲田大学理工学部卒業。2001年、名古屋大学大学院マイクロシステム工学専攻を修了後、日本アイ・ビー・エム入社。08年マインドピースを設立、社長に就任。15年アドビシステムズのソリューションをアジアで初めて機密文書保管サービス( SOCKET )としてサービス化、認証ソリューションプロバイダーを目指す。

松田 今期は6億円くらいになります。10㍍100円くらいで売っていますが、ネット顧客が10万人登録しています。いまは月に数千万円ほど仕入れ、多い日で1日500件くらい商品を出荷しています。客単価は、8000円で送料無料にしているせいか、みなさん8000円を超えるようにお買い上げくださいます。

近藤 8000円で6億円も売り上げるのはすごいですね。そんなに種類があるのですか。

松田 300色以上展開しています。そして、クラフトバンドエコロジー協会という編み方を教える協会を別会社で併設し、ここで100通りの編み方を教えています。ここで編み方を覚えた方たちが、講師として全国で教室を開いて、今、1800人在籍しています。最近はデイサービスや老人ホーム等の施設が、レクリエーションとして講師を求めています。協会は編み方を教えるだけの非営利団体ですが、先生たちが全国で開講することで、生徒さんがエムズファクトリーで材料を買っていただける。作る人が増えればネットショップの利益が上がる仕組みになっています。

近藤 成長のドライブがかかるブレイクスルーの時は、その事業と社会的ニーズが交わり合うことが必要です。紙の紐でカゴを作りたいという人がそんなにたくさんいるとは誰も考えません。意外なところに社会的ニーズがあったんですね。

山下さんのビジネスはどういうものですか。

実業家は無から何かを作る消極的では成功できない

山下 会社を始めたのが2006年8月で、ようやく10期目に入りました。もともと日本IBMに勤めていまして、当時の東京三菱銀行とUFJ銀行の合併にもメインフレームの製品オーナー部門として携わっていました。凄まじいプレッシャーで、ストレス発散の一貫で学生時代に趣味でやっていた音楽の作曲を再開し、アップルのiTuneストアが日本に上陸するタイミングに照準を合わせて、レコーディングを行っていました。

ただ、レコード会社ではないですし、人脈も経験もない。何としてでもオープニングに売り出したかったので、自分のCDを持っていけば契約してくれるのではと3回持ち込みましたが断られ、4回目に、レコード会社やレーベル以外では類のない例外対応で、サインをしてもらえました。たまたまアップルと契約でき、インディーズの楽曲を取り次ぐビジネスができるかな?と思ったのが起業に繋がったのです。そしてたまたま、友人が「好きなことやれよ」と100万円を出してくれた。

近藤太香巳 ネクシィーズ社長
こんどう・たかみ 1967年11月1日生まれ。19歳の時、50万円を元手に会社を創業し、34歳でナスダック・ジャパン(現ジャスダック)へ株式上場。37歳で2004年当時最年少創業社長として東証一部に上場を果たす。プロモーション&マーケティングを駆使したビジネスモデルでグループ10社にまで成長させ、LED照明レンタル事業、電子雑誌出版事業、経営者交流会「パッションリーダーズ」のいずれも日本一の規模を誇る。常に新たな分野へ挑戦し続け、早稲田大学や東京大学・一橋大学などでの講演活動も積極的に行い若者の心を持ち前の情熱でリードしている。JAPAN VENTURE AWARD 2006 最高位 経済産業大臣賞受賞。

コンテンツ業界は大変で、1コンテンツ売れてもマージンは100円くらいしか入ってきませんが、長く続けていると徐々に競合がいなくなり相対的にピーク時には売り上げが5000万円くらいになりました。

一方で、コンテンツ業界は右肩下がりになることは明らかだったため、第2の軸として、電子ファイル(PDFなど)に暗号をかけ、漏洩を防ぐセキュリティに目をつけたのです。たまたま見つけた、PDFの生みの親であるアドビシステムズがソリューションを持っていまして、電子書籍の分野ではグーグルやkoboも使っているような欧米ではとても有名なものでした。でも、日本では売っていません。このライセンスを買って日本で初めてサービス化すれば独占できると直感しました。

最初は断られたのですが、サポートがなくてもいいからと言うと、シンガポールのライセンスなら売ってくれると。シンガポールに行ってライセンス契約をして持ち帰ったのですが、2年間、解析してもなかなかサービス化に至らず何度も諦めかけました。弊社の社員の〝絶対にサービス化するんだ〟という強い情熱のおかげで、ようやく15年4月にサービスオープンできました。

近藤 山下社長はシンガポールやシリコンバレーに行き、松田社長はタウンページで順に北海道から電話して子供をおぶってまで静岡に行く。2人とも、自ら道をこじ開けて突き進む行動派ですね。山下さんはアポなしでシリコンバレーまで行ったのですか。

山下 アポを取ろうとしても取り次いでくれません。キーパーソンの名前は知っていたので、何度もノックしつづける。アップルでは日本から来たならと1回だけ繋いでくれました。でも来週来てくれと(笑)。たかだか数千万円のプロフィットのために、そこまで身を削るのはおススメしませんが、熱意があればダメ元でやってみるものだと感じました。

近藤 資本家と実業家の違いについては、よくパッションリーダーズでも話をしますが、資本家は資本を持って商売をする人。2人とも資本があったわけではなく、片や主婦であり、片や友人から100万円を出してもらっています。完全なる実業家です。実業家は無から何かを作り出す人たちです。アグレッシブさがないと実業家にはなれないし、消極的では成功できません。

松田 誰かからこうしろと言われたわけでもなく、応援してお金を出してもらったわけでもありません。やれそうな気がして勝手に始めてしまったわけですから、誰かのせいにはできません。私の場合、広告宣伝費はゼロで「なんなの?これ」という感じで何もしていないのに、クチコミで商品が売れていきました。友達から友達へ、作る楽しみと作ってあげる喜びが、商品の価値と売り上げの両方を押し上げていったのです。

近藤 手作りですから、真心がこもっているし、そこに社会的ニーズも生まれたのでしょう。

商売は「作る」と「売る」の2つしかありません。私は「売る」という営業から入ったので、資本金がなくてもできました。「作る」は初期投資が必要ですし、商品が売れなければ失敗に終わります。また、マーケットにはスケールの大きいものと、ニッチなものがあります。通信やITは、この20年で700倍以上の成長があったと言われています。私も経験しましたが、大きなマーケットにもかかわらず、NTTとネクシィーズがゼロスタートで戦うことができた舞台でした。だからこそ多くのベンチャー企業が生まれてきた。半面、大手もベンチャーも有象無象に集まって、とても激しい競争が行われてきたのです。

松田裕美 エムズファクトリー社長
まつだ・ひろみ 2003年、3人の子育てをしながら個人創業。06年に法人化、エムズファクトリーを設立、社長に就任。同年、クラフトバンドエコロジー協会を設立し代表理事に就任、通信教育事業を開始。東日本大震災を機に被災地復興応援プロジェクトを開始し、イッセイミヤケとコラボして被災者のつくったバッグの販売にも着手している。

子育て主婦がつくったオンリーワンのビジネスモデル

松田社長が手がける市場は、まったく逆で、誰も手が出せない。ノウハウを提供し、その材料を仕入れて販売するという、非常におもしろいビジネスモデルです。

松田 同業者が出てきても、すごい早さで消えていきます。300色のうち、松田オリジナルで280色を押さえていますから、工場から売ってもらえないんですね。工場側も、小さな市場ですから、私が買わないとなったら月数千万円の売り上げがなくなってしまいます。固い絆でつながっていますから、裏切らないですよ(笑)。

山下 業界は違いますが、私も極力、競合がいないエリアに軸を移してきました。IBM時代に経験したことですが、レギュレーションではない例外のプロジェクトの申請を業務としてきました。もちろん例外ですから承認をもらうことは簡単ではありません。非常に苦労したのですが、よく見ると、例外承認を受けたプロジェクトは利益率が非常に高い。日本人はあまり例外を獲りにいくことをしませんが、もし1回獲れれば、大きな優位性になります。

近藤 例外を獲りにいくというのは、非常におもしろい、興味深いキーワードです。常識と非常識という言葉はありますが、私がこれまで狙ってきたのは「未常識」です。いままでになかったことや、まだ常識とされていないことです。このような例外を行うからこそ、その分野で1番になれます。やるからには1番を目指さないとビジネスはおもしろくありません。実業家はその行動力が必要不可欠なのだと思います。

2015年12月号 目次

特集1 手帳のすすめ
ビジネスパーソンたちよ さあ、来年は 手帳を替えよう!
〝気づき〟のきっかけをつくる手帳の効能
「時間管理」の巧拙がキモ 〝自分を予約する〟重要性
湯川秀樹も使った日本生まれのシステム手帳
人気手帳と、今年注目の手帳 使いやすさの工夫はどこだ?
スマホと手帳 脳を休ませるか、活性化させるかで使い分け
特集2 星野リゾート オンリーワン戦略
星野リゾート オンリーワン戦略
日本旅館で世界に出る 都市観光も第4の柱に
IR CLIP
ブランジスタ
REPORT
大和ハウスとパナソニックが 手を組んだ世界初のロボット
TOP INTERVIEW
ソニーから独立して1年 新生VAIOを率いる 〝ソニー知らず〟の新社長
音声認識でマザーズ上場 新事業とAIで次への挑戦
連載
キリンが本気で取り組む クラフトビールの世界観
資本家と実業家の違い
目指すはルフィ 「世界の葬儀王に 俺はなる」
トルコで感じた 中東地域でのスタートアップ事情