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2016年06月号

TSUTAYAとのタッグで 同業と一線画す異色スマホ

トーンモバイル社長(兼CCC取締役CIO) 石田宏樹

今後も右肩上がりが確実視される、格安SIM&スマホ市場。 ただし、あまたあるMVNO(仮想移動体通信事業者)同 士の戦いは、生き残りを賭けて熾烈さを増している。当然、 そこでは個性や差別化が一層求められるわけだが、異彩を 放つ存在といえるのが、CCC(カルチュア・コンビニエンス・ クラブ)とフリービットの合弁によるトーンモバイル。同社 の石田宏樹社長に差別化ポイントを中心に聞いた。

ISPでの経験値生かす

いしだ・あつき 1972年佐賀県生まれ、福岡県育ち。98年 慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中に有限会社リセット を設立し、取締役に就任。その後、三菱電機よりISP (イン ターネット・サービス・プロバイダー)立ち上げの依頼を受 け、ドリーム・トレイン・インターネット(DTI)設立に参画。 99年に最高戦略責任者に就く。2000年フリービット・ドッ トコム(現・フリービット)を設立、07年東証マザーズに上 場。同年DTIを買収。13年freebit mobileのブランドを 掲げてスマートフォン分野に参入。15年2月カルチュア・コ ンビニエンス・クラブ(CCC)と資本・業務提携。同年3月 CCCと合弁のトーンモバイルを設立して社長。CCCの取締 役CIOも兼務。

〔トーンモバイルは、もともと格安スマホ事業も展開していたフリービット(インターネット・サービス・プロバイダーの草分けの1社で2000年に設立、07年に東証マザーズ上場)が昨年3月にCCCと合弁を組んでスタートした企業。石田宏樹氏はフリービットの創業社長(現・会長) でもあるほか、CCCのCIOも務めている。まずは、CCCとのタッグの経緯などから振り返ってもらうと――〕

いまMVNOのブームが起こっていますけど、20年ほど前にもインターネット接続業者のブームがありました。その市場にフリービットとして参入し、市場が広がった後、参入企業が集約されるという戦いを見てきていることが、とても貴重な経験になっています。MVNOは継続課金サービスのビジネスとしてすごく魅力的ですが、同時に継続的にコストがかかるサービスですので、その部分をいかに技術的にコストセーブするかとか、あるいは特許なども含めてフリービット時代にノウハウを積み上げていきました。

そのようにフリービットは技術中心の会社ですが、スマホ事業をさらに拡大するためには、フランチャイズ(以下FC)のビジネスモデルが必要だったのです。そして、私が戦略を作るうえで目標にしてきたのがCCC、つまりTSUTAYAの戦略でした。そう思っていたところ、(CCC創業者の)増田宗昭さんのほうからお声がけをいただき、我々が持っている技術とCCCが持っている生活提案力やFC展開力、加えて増田さんの商人精神がマッチングすることでステップアップが可能になりました。

増田さんのすごいところは、大阪商人のスピリットを持ちつつ、売らんかなの供給者論理ではなく、常に消費者目線があること。カッコいいライフスタイル提案に長けていて、そことフリービットの技術力をどう融合化、パッケージ化していくか。そこがこの1年で一番、重要なポイントでした。

CCCとフリービットって、意外と企業理念が近いんです。実際に議論の過程ではたくさん摩擦も起きましたが、一旦お互いに理念まで立ち戻って話し合うと、結果的にはコンセンサスが取れるんです。

〔もともと、CCC側も14年12月にCCCモバイルを設立し、同年に中古パソコンやスマホの販売、買い取りを手がけるイオシスと資本提携するなど、フリービットとの合弁を発表する前から独自の動きは見せていた。当初から、これまでの複雑怪奇なスマホの料金体系をシンプルにし、いたずらに機種も増やさずにユーザー・オリエンテッドなスマホに仕上げるというコンセプトも公表、その理念の部分で石田氏と意気投合できたというわけだ〕

増田さんはリアルのビジネス世界が得意で、私は学者肌なのでIT系の未来情報や技術を持っている。その間をどう最短距離にして新しいビジネスとして組み上げていくか。その部分でのディスカッションはすごく面白いですね。

一番のキモはシンプルなこと。とにかく消費者にわかりやすくしていかないといけないというのが増田さんの最重要な考えで、事業者の論理を一番嫌います。「MⅤNOだからこうだとかは事業者側の論理で、お客様には何の関係もない」と。お客様に対して何がメリットなのかを、いかにシンプルにして提案、提供していくか。増田さんは「お客様に伝わらなければ存在していないのと一緒だぞ」とも言われます。売ろう売ろうとしたら、お客様はかえって買ってくれないことをよくわかっているからです。

あとは「スマホの手触りはセクシーでないといけない」と。手で持った瞬間にそう感じるようにしないといけないということで、たとえば(昨年11月に発表、発売した)「m15」という我々のスマホは、裏面を少しザラザラした感触にしています。これは心地いい感触と同時に、スマホを落としにくくする面でも効果を出しているのです。しかもザラザラ感を出すことで、重量の軽さ感も出せることがわかりました。

トーンモバイルの石田宏樹社長の名刺には〝デジタルアーキテクト〟の肩書も刷りこまれている。

シンプルさで差別化

〔トーンモバイルの座標軸は、端末は1機種、料金体系も月額1000円(税抜き) のみというシンプルさにあるが、ほかのMⅤNOはスマホに挿すSIMカードのみか、国内外のメーカーから調達した端末とSIMカードのセットで販売しているのに対し、トーンモバイルでは端末も自社製で、いわゆる垂直統合モデルを展開している。同業ではFREETELブランドのプラスワン・マーケティングも同様だが、プラスワンのほうは料金体系も機種も多岐にわたっており、シンプルでわかりやすい点はトーンモバイルのほうが上だ。
また、トーンのm15の端末では、端末が入っている化粧箱の上に置くだけで、スマホに生じた不具合などを発見し、自動的に修復する「置くだけサポート」や遠隔サポート、スマホ紛失時にパソコンからスマホのアラームを鳴らしたりロックをかけたりデータも削除可能。また、歩数や消費カロリーを計測できるライフログ機能、親だけが知っているパスコードを入力しないとアプリがダウンロードできないようにするインストール制限など、主としてシニアやスマホ初心者、子供向けに手厚い商品設計になっている。スマホの買い替え需要の奪い合いはすでにレッドオーシャンだが、トーンが核にしているターゲットはまだ、ブルーオーシャンといっていい〕

もともとハードウエアのロードマップを向こう3年分ぐらい持っていて、我々は端末も自社開発しています(ただし生産は海外に委託)が一番難しいのは、(グーグルの)アンドロイドOSをどこまでいじれるのかということです。アンドロイドはいろいろな制限が厳しくなってきていますので、その中でどこまで我々の独自性が担保できるか。それでいて、ちゃんとグーグルから認証も取らないといけないというラインを、ハードウエアやミドルウエアのチームでずっと展開してきました。いかに早くAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェイス)を作ってお客様に役立つものを作れるかが鍵ですね。

サービス面で言えば、MⅤNOは扱い端末数が増えてくると、サポートするのにコールセンターがもたなくなってくるので、端末まで自分たちでコントロールしていないと、どこで問題が起こっているのかがしっかり把握できません。

お客様にしてみると、「これはメーカーに聞いてください」「これはキャリアに聞いたほうがいいですね」とたらい回しにされてしまう。これも、フリービットでインターネットプロバイダー事業を展開してきた経験でよくわかっていたことです。メールがつながらない時にパソコン自体が悪いのか、Wi‐Fiルーターの問題なのか、あるいは半導体チップが悪いのかわからない。そこを全部解決できるように端末も自社で開発し、遠隔のサポートまでサービスに付けているのです。

料金のシンプルさについては、これまではライトユーザーがヘビーユーザーの分も負担するような料金構造がまかり通ってきましたが、1000円支払う対価はライトユーザーもヘビーユーザーも等しく公平でないといけない(トーンではパケットは使い放題。ただし動画視聴などを快適にしたい場合は1GB300円で高速チケットオプションがある。通話はトーン端末同士は無料)。

化粧箱の上に端末を置くだけで不具合を検知、修正してくれる。

時間節約と時間消費と

〔今年2月末以降、トーンモバイルは攻勢に出た。1つは、俳優の坂口健太郎氏を起用したテレビCMの開始。もう1つが、2月末時点で14ヵ所にとどまっていたTSUTAYA店舗での自社スマホの販売を、2017年3月までに全国のTSUTAYA、200店舗へ拡大(TSUTAYAはトータルでは約1500店ある)すること。ただ、TSUTAYAの主力顧客層のイメージは若年層。スマホの操作や情報に詳しく、端末もハイスペックなものを求める人が多いのがこの層だが、シニアや子供をターゲット層にしていてズレはないのだろうか〕

まず、TSUTAYAは個店ごとに全然、クラスターが違います。年齢クラスターのデータベースが個店ごとにありますので、どこのお店で売ればいいかというのも、ここ1年間の中で見えてきました。たとえば、都会のすごくお金持ちの多いエリアでどんなにトーンの端末の訴求をしても、まったく響きません。我々は、家族とお子様が安心安全にスマホが使えるという点を担っていくわけですし、売り方もこれまでに14店舗で販売したデータでいろいろとわかってきています。

端末も1機種にしているのは、選択肢が増えれば増えるほど、お客様が選ぶのに煩雑で選ぶ苦痛があるからです。

かつて、スティーブ・ジョブズがアップル社に戻った時、それまで36種類あった商品ラインナップをノート、デスクトップ、エントリー、プロと4種類に整理していますが、当社も1機種にこだわっているのは、選択の苦痛をなくしたいから。当社のスマホ1台でお子様も使えるし、高齢者もファミリーも使える、もちろんITのプロである私も心地よく使える端末を、どう完成度高く実現するかが勝負なのです。

そもそも、イノベーションによる貢献度の物差しは、時間の使い方が変わったかどうかだと思っています。情報革命のいま、時間消費型商品と時間節約型商品がごっちゃになっているので、よくわからなくなっているんですね。たとえばかつては松下電器が、作業効率の高いナショナルブランドの掃除機や洗濯機などで主婦の空き時間を絞り出し、その絞り出した時間を、今度はパナソニックというブランドで、オーディオやテレビの世界に誘っていました。時間節約をシンプルさで達成していき、よりよい時間消費ができるようにしたい、というのが我々のすごく重要な考え方です。

その点、CCCとの提携はものすごく大きくて、CCCが持っているTポイントカードなどを通じたデータベースを、お客様のためにどうやって役立てていくか。結果として、それをさらに時間節約にどう寄せていくかはすごく大事です。集積データをビジネスにするというのではなく、データによって、人の時間軸にいかに早く貢献できるかにこだわっています。

2016年06月号 目次

試し読み
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