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2016年06月号

飲酒運転事故撲滅に タッグを組んだ日立とホンダ

日立製作所基礎研究センタ主任研究員 山田益義、本田技術研究所四輪R&Dセンター研究員 金 圭勇

2007年に飲酒運転の厳罰化が施行されて以降、死亡事故は減少してきている。
しかし、現在まだ飲酒運転による重大事故のニュースは後を絶たない。
そんな現状に一石を投じるべく、日立とホンダが飲んだら運転できないシステムを開発した。

3つのコンセプト

発表する日立の山田益義主任研究員。
ホンダの金圭勇研究員。

3月24日、日立製作所とホンダが、スマートキー対応のポータブル呼気アルコール検知器の試作に成功したことを発表した。これは簡単に言えば、クルマのキーと検知器を連動させ、アルコールを検知した場合はエンジンがかからないようにするシステムが、より小型に、かつ精度が高くなって登場したというもの。

米国ではすでに、アルコール検知器とクルマのエンジンを連動させた「アルコール・インターロック」を導入するための技術開発がNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)主導で始まっているが、アルコール検知器のサイズが大きく、車内に備え付けたものになっていた。日立が2009年から開発してきた検知器もクルマに備え付ける前提のもので、ドライバーは車内に乗り込まなければ呼気の計測ができない不便さがあった。今回発表された検知器は携帯サイズで車外に持ち出すことができ、いつでも、どこでも、素早く検査を行うことができるようになる。

日立とホンダが組んだ背景には飲酒運転事故撲滅というテーマがある。本田技術研究所四輪R&Dセンター研究員の金圭勇氏はこう語る。

「ホンダのグローバル安全スローガン『Safety for Everyone』には、クルマやバイクに乗っている人だけでなく、道を使う誰もが安全でいられる事故に遭わない社会をつくりたいという思いが込められています。飲酒運転事故の現状を見ると、死亡事故に占める飲酒運転の割合は、米国や欧州の約30%に比べて日本は約6%と低いものの、マスコミに取り上げられるような重大事故が頻発しています。世界でアルコール・インターロックの装着が法制化される流れのなか、ホンダは米国で行われているアルコール・インターロック技術開発プロジェクトに参画してきました。そこで日立さんの呼気検出の技術論文に着目し、ホンダ側から共同開発の話を持ちかけました」

日立はもともと計測技術分野には強く、1970年代から医療分野等で実績を積み上げてきた歴史を持つ。90年代には環境分野にも進出し、環境汚染物質の測定や自動車排ガス測定等のガス分析を手掛けてきた。それらの測定技術の延長に誕生したのが09年から着手した呼気センサーの技術だった。日立とホンダがアルコール検知のセンサーの共同開発をスタートさせたのが12年。3年越しの成果が日の目を見た形だ。

なぜホンダが呼気センサーにこだわったのかといえば、現在市販されているポータブル呼気アルコール検知器では、吹き込まれた気体が人間の呼気であるのかどうかを判別できず、呼気とアルコール検知を同時で行うことができなかったことが挙げられる。アルコール・インターロックを前提にするならば、ドライバーの呼気で解除できなければ意味がない。エアスプレー等で解除させてはいけないのだ。

日立製作所基礎研究センタ主任研究員の山田益義氏はその技術について次のように語っている。

「酸化物絶縁体を電極で挟んだセンサー上に呼気が吹きかけられると、呼気中の水蒸気が絶縁体に吸着して検出電極に電流が流れる現象を利用し、クシ形構造として電極を長く、電極間距離を狭くして高感度かつ小型化に成功しました」

手の平サイズのアルコール検知器。
検知した状態ではクルマのエンジンがかからない。
アルコールを検知すると赤いランプが点灯。

今回のアルコール検知器で、もっとも難しかった点が「小型化」だったという。もともと日立が開発していた車載型の検知器では、精度を高くするためにマウスピースを咥えたり、排気用のファンや呼気を溜めるためのチャンバーが必要だった。センサーの小型化と高感度化によって持ち運び可能なポータブル化を実現している。

「より正確に検知するために、エタノール、アセトアルデヒド、水素の半導体ガスセンサーを搭載し、3種ガス測定によってエタノール濃度検出精度を従来より約3倍向上させています。国内で酒気帯び状態と認識される0・15mg/Lの濃度に対し、その10分の1まで測定できることを確認しています」(山田氏)

息を吹きかけてから約3秒で酒気帯びかどうかを判断でき、同時に水蒸気センサーで人の息かどうかも判断している。不正使用も防ぐことが狙いだ。ここで酒気帯びと判断されれば、スマートキーと連動してエンジンを始動させないアルコール・インターロック機能が作動する。その際、車内モニターには「飲酒しています。しばらくしてから再計測してください」と表示され、同時に音声も流れる。「より手軽に、より正確に、より安全に」という3つのコンセプトが実現されている。

しかし、課題はまだまだ多い。ドライバー以外の飲酒をしていない人の呼気を使ってエンジンをかけることは可能だ。また、普及には法制度の後押し等が不可欠であり、検知器のコスト負担を誰がするのかといった運用面の課題もある。技術は出来上がっても、それを受け入れる社会的な機運が高まらなければ搭載されない可能性もあるだけに、安全への啓蒙も進めなければならない。

「ホンダは、交通事故に関するあらゆるリスクの排除を目指しています。将来的には、運転中に意識を失ったり体調が急変することがないように、座っただけで健康状態もチェックできるようなところまで実現したい。アルコール検知はまだスタートの段階だと考えています」(安斉秀彦・本田技術研究所四輪R&Dセンター主任研究員)

交通事故撲滅を目指す技術者の追求はとどまることがない。

2016年06月号 目次

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