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2017年09月号

雇用のパラダイムシフト 人材の流動化こそ安定に繋がる

水田正道 パーソルホールディングス社長

みずた・まさみち 1959年生まれ。84年、青山学院大学経営学部卒業後、リクルートに入社。88年テンプスタッフ創業者の篠原欣子氏に請われ、テンプスタッフに入社。95年取締役、2008年テンプHD常務、10年副社長を経て、13年社長に就任。16年事業会社テンプスタッフの社長を離れ、HDの社長に専念。17年7月1日にパーソルホールディングスに商号変更。

雇用も多様性が必要に

―― 2018年には派遣業界に影響する法改正の効果が現れ、企業の人材活用の在り方が変わっていきます。この一連の働き方の変化についてどう考えていますか。

 総人口の減少と人口構造の変化により働き手が会社や仕事を選ぶ時代が本格的に到来します。まさにパラダイムシフトが起きている。かつては周辺の地方から都市部に労働力が入ってきましたが、これからどこにも労働力がないという状態が続いていきます。当然、イノベーションを通じて生産性を上げていかなくてはいけない大前提はありますが、人がいないわけですから、企業が選ばれる時代です。働きやすい環境をつくっていかないと、来てもらえません。

「どこにも労働力がないという状態がつづく」と水田社長。

 それは派遣社員や正社員という枠組みではありません。無期雇用なのか有期雇用なのか、職種、勤務地、時間のいずれかの限定なのか無限定なのか、この枠組みを自由に、自分のライフスタイルに応じて動けるようにしていくのが、多様性のある働き方を実現する一番の道だと思います。少なくとも正規、非正規という分け方はナンセンスです。多様な働き方を実現しなければ成り立たない労働市場において、この呼称はやめたほうがいいと思います。雇用を安定させるのは社会的にも大事なことだと思いますし、国の重要な施策ですが、正社員を守れば雇用が安定するというのは錯覚です。成熟産業から成長産業への人材の移動や、個人のライフステージに応じた多様な雇用形態が実現しなければ、企業は膠着し、競争力を失ってしまいます。

―― いったん正社員の道から外れると、人材市場に戻れなくなってしまう?

 そうですね。企業や仕事が未来永劫続いて、成長するという大前提があれば流動化しなくても雇用は安定しますが、これからはそんな時代ではありません。

―― 流動化すれば雇用が安定するということについて、もう少し掘り下げて話してもらえますか。

 例えばテクノロジーがどれだけ働き方に影響を与えるのか、いろんな予想が出ていますが、企業経営において予測するのは難しいです。ただ、相当な影響がでるのはわかっています。わかりやすい事例を挙げると、スマートフォンに日本語を話すとスマホが英語にして喋ってくれて、英語を聞くと日本語にしてしゃべってくれる。こんな通訳いらずの技術の実用化がすぐ目の前に迫っています。人が翻訳してきたものを、テクノロジーが代替して仕事をする。このような職種は、たくさんあります。

 仮にテクノロジーで置き換わる仕事に従事してきた人は、その仕事に限定していたら、仕事そのものがなくなってしまうわけです。一方で、仕事によっては人が必要な業界もあります。そうなれば、再教育が絶対に必要になってきます。新たな時代に応じたスキルや知識、能力を身に着けていかなければいけません。1つの会社のなかで配置転換できればいいですが、一企業では限界があります。個人が時代のニーズに合わせてスキルを変え、適応できるようにしていく。人材の流動化が働く人にとってハンデにならないよう、世の中の仕組みを変えていかなければいけません。

―― 実際、フィンテックの普及で大手銀行が店舗や雇用をどうするのか注目を集めていますね。

 いずれは、そのままというわけにはいかないでしょうね。ただ、雇用の流動化については様々なご意見があります。人材業の私が言うと、自分たちの利益のために言っているんだろうと思われがちです(笑)。しかしながら、生産性で見れば日本はOECDのなかでも最下位です。これは雇用の流動化がないからです。

ライフスタイルに応じた柔軟な働き方

―― 社員を雇う側である企業についてはどうですか。

 企業側は、雇用政策を変えていかざるを得ないでしょうね。いまは長時間労働の問題など、やらなければならない課題はわかっているんですが、働きやすい職場環境をどうつくっていくのか、ご苦労されているようです。これからは在宅勤務や副業とか、柔軟な働き方の場を提供していかなければ来てほしい人は来ない。新卒採用では名の通った企業でも本当に苦労しています。

 何よりこの国は、就業参加率を高めていくことが最優先だと思います。その意味では、多様性のある働き方はセットのようなものです。しかし、ある経営者の方は、楽をして働くために、多様性という言葉が使われることに懸念を示していました。多様性のある時代であればあるほど、1人1人が自覚をして、責任を持って仕事をしていかないと、成り立たなくなります。多様性のある働き方を導入しなければいけないのはわかっているけれども、社員を甘やかすわけにはいかないというジレンマに悩まされる経営者も増えていますね。

―― 今回の派遣法改正では、国は派遣社員ではなく、正社員を増やしたいという意向があるようですが、実際に働いている人たちは正社員になることを求めていないというズレがあるように思います。

 パーソルグループ内にITアウトソーシング、エンジニアリングを担っている会社がありますが、ここには併せてエンジニアが5000人以上在籍しています。我々はすべて無期雇用していますが、国の定義である正規か非正規かで言えば、非正規社員ということになります。無期雇用をしていても正社員の扱いではない。つまり、正規か非正規かではなく、繰り返しになりますが、無期か有期か、限定か無限定かという枠組みのなかで働き方、個人の要望、ライフスタイルに応じて、それらの間を自由に移動できるようにしなければならない。

いまは移動に対して社会的なハードルが高いわけです。自由な移動、つまり流動化した労働マーケットこそが雇用を安定させます。

 2015年の派遣法改正では、有期雇用契約の派遣社員が同じ派遣先部署で3年働く見込みがある場合、①派遣先の直接雇用の社員として働く②他の派遣先で働く③派遣会社の無期雇用社員として働く④その他、安定した雇用のための教育訓練や紹介予定派遣で働くといった中から選択することになります。これは派遣社員本人がどの働き方を希望するか、また派遣先企業の人材配置の考え方によってケースバイケースになります。

人材サービスの需要は「さらに高まる」と予測する。

 実は派遣で働いている方の約80%が、どこかの会社の正社員として働いた経験をお持ちです。派遣先企業が直接雇用にしたいと思っても、本人がそれを望まないケースは少なくありません。

―― 意識のズレがあるなかで、一連の法改正の狙いをどう受け止めていますか。

 雇用の安定と賃金でしょう。正社員と較べると、賃金が安い。同一労働同一賃金の問題もありますが、今回の働き方改革は、賃金を底上げしたいという意図が非常に強いものになっています。

 これまでの派遣法と比較すれば、3年を目処に希望する働き方に向き合い選択できる点、派遣社員の雇用の安定という意味では、一歩進んだ法改正だと認識しています。正規社員か非正規社員かという問題ではなく、派遣社員の働き方の希望を実現しやすい制度にしていくことが重要だと考えています。そのためのキャリア形成や実務を通じた就業経験やスキルアップ、教育訓練などは充実させていく必要があると思います。

パーソルブランドに商号変更

―― 7月1日からテンプグループからパーソルグループに衣替えし、商号と組織も変わりました。働き方改革や法改正と、変化のタイミングが合った形ですね。

 もともとこの体制変更は2013年から始めている議論です。我々のグループは5社の上場会社を中心にした集合体で、バラバラに運営されていました。この会社を生んで育ててくれた篠原欣子ら創業メンバーは経営の第一線からは退いています。創業者は理屈ではない求心力を持っています。しかしこれからの会社には創業者は現れません。その時に我々の求心力をどこに求めるのか。ビジョンであり、行動指針であり、スローガンという形になってくると思います。属人的な求心力から組織的な求心力を高める時期にきていました。

我々のやりたいことは何かというと、目下2つしかない。1つは多様性のある働き方をしっかり実現していきたい、もう1つはミスマッチを極小化していくということです。これが我々が社会に存続させていただける価値だと思います。これを実現していくために何が必要なのか。バラバラなブランドで社内も縦割りで、マーケットからみればバラバラな企業体です。これでは多様性のある働き方は実現できないでしょう。

 ただ、この問題は頭でわかっていても、お互いに牽制したり主導権争いをしたりが起きる。認め合わない尊重し合わないなかでビジョンを決めてもお題目にしかならない。社名を変えるといっても合理性がなくなってしまいます。グループ社員に、どれだけ理解してもらえるのか、これは時間がかかると思っていました。20年までにできればいいと思っていたのですが、現場の相互理解が進んだのが肌感覚でわかりましたので、今年、踏み切ることにしました。

―― 6期連続で最高益と、追い風のタイミングでしたね。

 時期はたまたまです。私もこの業界に30年いますけど、これだけ右肩上がりで需要が拡大しているというのは過去に経験がないです。いままでは4〜5年いいと数年落ちてというのが繰り返しでした。今回は多少、景況感が悪化しても、需要の大きさは変わらないと思いますね。

―― 今後の派遣業界はどのようになると予想していますか。

 先を占うポイントとして需要がどうなるかですが、これが減ることは考えられません。人が足りない、長時間労働の是正をしなくてはいけないという問題がありますから。これからイノベーションを通じた生産性の向上は図られていくと思いますが、簡単にできれば苦労はありません。需要は高まると思います。

 その需要側である派遣先は、お客さんとの関係をどう向き合っていくのかという議論が起こるでしょう。例えば流通が定休日を設けようといった具合です。日本はサービス時間を延ばすという方向が顕著でした。それをどこまで見直していくのか、という動きが本格化してきます。

 従来は、同業者がやったからとか、日本人特有の横並び意識が強かった。それが結果的に過剰サービスを招き、長時間労働に繋がり、生産性を落としてきたのだと思います。こういう時代になって、どこまで顧客と付き合って自分たちの競争優位性を担保していくか。前例がない状況になってきました。顧客に向き過ぎても社員がいなければサービスを提供できませんし、社内の労働環境を無視できません。難しい瀬戸際だと思います。横並びみたいな国民性は変わっていかざるを得ません。

 そのようななかで、派遣マーケットで働きたいという方がどれだけいるか。いくら需要は伸びても、派遣で働くのは魅力的でないという評価になってしまっては、業界は衰退していきます。働く方々から見た時に、安心、安全で、自分のライフスタイルを充実できるという、そういうマーケットにしていかなくてはいけません。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

2017年09月号 目次

試し読み
雇用のパラダイムシフト 人材の流動化こそ安定に繋がる
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生田正治