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2017年09月号

生田正治

元商船三井会長 元日本郵政公社総裁

「郵便だけでなく、郵貯も簡保もみんな同じで、本当の意味で意識を変えていかないと競争力をつけるのは無理ではないかと思います。

その意識とは何かというと、抽象的にただ意識を変えるわけではない。いままでは完全な官庁ですからね。それが公社に変わるということは、名前と公務員という身分が変わるだけでなく、ビジネスマインドを持ってもらわなければいけません。だけどこれまで一度も持ったことがない感覚ですから、これを変えるにはみんなが努力しなきゃいけない。

(中略)どうすればお客様に魅力を感じてもらえるのか、どうやっておもしろい商品にするのかというディマンドサイドの視点にどうやってマインドを変えていくか、というのが課題です。

これは言うは易しで、長年郵政省時代から生きてきた人たちにはかなりのプレッシャーかもしれない」

(2003年1月号掲載)

6月22日に横浜市で株主総会を開いた日本郵政。長門正貢社長にとっては謝罪の舞台になった。日本郵政はオーストラリアの物流子会社の業績不振で、2017年3月期に4000億円の減損損失を計上、郵政民営化後初の赤字に転落している。

日本郵政は野村不動産ホールディングスの買収が報道され、のちに撤回されるなど、迷走状態にある。株主総会の場でも成長戦略について「全国の郵便局のネットワークをフル活用して郵便、銀行、保険の3事業をきちんとやる」と、まるで15年前の話をしているのかと錯覚するようなことを言っている。まったく新しい成長戦略が描けない状況だ。

冒頭の言葉は、郵政民営化にあたり、03年4月に郵政公社初代総裁に就任予定だった生田正治氏のインタビュー。取材は就任の4ヵ月前の02年12月に行われたものだが、この時の生田氏はできるだけ前向きに、前途は開けていると思われるような話し方をしていた。これから新しいことが始まろうとしているのだから当たり前の話なのだが、すべてが本音とは言い難い。コメントの端々で不安が表れていたのも事実で、自身が「辞退をするために最大限の努力はした」と語っている。

時は小泉政権時代。郵政民営化は改革の目玉だっただけに、政府から生田氏への就任圧力は相当なものがあったようだ。

実はこの時、私はまだ入社2ヵ月ほどの超新米記者で、商船三井会長という大企業の経営者のオーラを前に戦いた記憶がある。スラリとした足を組みながら語る姿は単純にカッコよさを感じた。その経営者が、トップ就任を躊躇う郵政公社とは、いったいどんな組織なのか、逆に興味が湧いたものだった。

旧特定郵便局長の既得権益と戦い続けた生田氏だったが、07年3月に任期満了という建前で郵政を離れることになってしまう。10月1日の民営化までわずか半年というタイミングにもかかわらず、だ。07年参議院議員選挙の直前、政権は郵政票の確保に走り、請うて生田氏をトップに就けながら、既得権益票のために梯子を外した形だった。

その後、元三井住友銀行頭取の西川善文氏が日本郵政初代社長に就任するが、西川氏は民主連立政権によって辞任に追い込まれ、小沢一郎氏と昵懇である元大蔵事務次官の斎藤次郎氏が就任。その斎藤氏も自民党政権が誕生すると、副社長の坂篤郎氏を社長に指名して辞任した。その坂氏は半年で辞任に追い込まれ、元東芝会長の西室泰三氏が社長に就く。

西室氏は日本郵政の上場を果たしたものの、東芝の不正会計騒動のなか体調不良で退任し、昨年から長門氏がトップに就いている。わずか10年間に6人目のトップということになるが、そのほとんどが政治の思惑絡みという、民間企業では考えられない人事だった。

09年3月初旬のこと、私は本誌創業者の針木康雄とともに生田氏にインタビュー取材をしている。テーマはもちろん日本郵政の混乱ぶりのことだったのだが、残念ながらこのインタビューはお蔵入りになっている。針木の話術につい生田氏がしゃべり過ぎたと感じたのか「去った人間が後から話すことではない部分がある」と記事化を断られてしまった。

当時のテープ起こしを読み返すと、暴露話的なものはそれほど多く話していないのだが、針木の誘導尋問に対して真摯に答える生田氏の生真面目な対応が目立った。書き方によっては愚痴と捉えられかねない内容を嫌ったのだろう。掲載の可否をめぐっては針木も頑固だったが生田氏も頑固だった。やはりこの取材データはお蔵入りのままにしようと思う。

(本誌編集長・児玉智浩)

2017年09月号 目次

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