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2017年10月号

問題山積のライドシェア 断固反対を訴えるタクシー業界

髙野公秀 グリーンキャブ社長

たかの・ひろひで 1956年生まれ。成城大学経済学部卒業。2003年、創業者で父の髙野將弘氏が会長に就任し、社長に就任。東京ハイヤー・タクシー協会副会長。

世界的な潮流となっているシェアリングエコノミー。その代表的なサービスとして知られるのがライドシェアのUber(ウーバー)や民泊のAirbnb(エアビーアンドビー)だ。なかでもウーバーは世界中のライドシェアサービスを席巻し、従来のタクシー会社を駆逐する勢いで拡大している。しかし、そのウーバーだが、日本市場への参入については思うように進んでいない。ウーバーが日本に定着できない理由とは何か、またウーバーが抱える問題点とは何か、6月までタクシー問題懇談会の会長を務め、ライドシェア問題にも詳しいグリーンキャブ社長の髙野公秀氏に話を聞いた。

タクシーは公共インフラ

── タクシー業界は、ウーバーをはじめとしたライドシェアに対して断固反対の姿勢を示しています。一般的にはシェアリングエコノミーに対して肯定的な風潮にあるなか、タクシー業界としての主張を改めて聞かせてください。

ウーバー等ライドシェアの問題点について語る髙野社長。

その前に、まずタクシーの歴史からお話ししたほうが理解しやすいと思います。日本で100年超の歴史を持つタクシーですが、いまは西のロンドン、東の東京が世界の2大タクシーと言われるほど発展しています。ここまでになるには、タクシー産業に3つのエポックがありました。

1つは、運賃メーターが付いたこと、2つ目がLPガス燃料を使ってコストを下げたこと、もう1つがタクシー無線の導入でした。タクシーの草創期は非常に高価な乗り物でしたが、高度経済成長期に需要が高まりました。当時のタクシーは、メーターがないために、ドライバーと乗客が「いくらでどこまで行ってくれ」と交渉をして乗せていました。そのうち目的地に行くまでにボッタクリが出てきます。タクシーの営業特性的に、1人が1人を乗せるため、誰も見ていない密室になりますから、取り締まりが難しかったのです。ドライバー同士でも、いいお客様がいる銀座など、「ここは俺のシマだ」と場所取りが横行していたわけです。人によって値段が違ってはいけない。誰が乗っても公平にするために、メーター機が付けられるようになりました。しかし、タクシーは公共交通で一種の公共料金という理解がありましたから、国が認可をしなければダメだと、価格を勝手につけることができなくなりました。これを業界用語で同一地域同一運賃と言っています。同一地域というのは、業者に営業区域を設定して、他の区域で営業活動をしてはいけないというものです。こうしないと、東京23区の市場が一番稼げて大きいので、神奈川や千葉、埼玉など近隣のタクシーがぜんぶ東京に来てしまう。神奈川のタクシーは神奈川から東京までお客様を乗せてもいいのですが、都内で営業せずに神奈川まで戻らなくてはいけません。

── 国から地域ごとに価格が決められることで、より公共インフラとしての存在に近づいたわけですね。

タクシーには需要と供給があって、国がこの地域には何台営業してよいと調整します。たとえば金曜の夜の銀座で雨が降ると、みんなタクシーで帰りたがるから、クルマが足りません。しかし金曜の最大の需要帯に合わせてタクシーを用意すると、月曜火曜がヒマになってしまいます。クルマがあふれかえるとドライバーさんはお客様を乗せられずに生活できなくなってしまいます。バランスを取って適正台数になるように調整しているわけです。

もう1つ、国は営業免許を事業者に与えています。これはお客様に対する安全の問題です。これはいわゆる「白タク」と区別されるものです。ナンバープレートが白いクルマが自家用車ですが、その白いナンバープレートのまま営業行為をするのを白タクと言って、法律違反にあたります。タクシーは濃い緑色の営業ナンバーを付けていますが、二種免許を持っているプロのドライバーが乗っています。さらに東京では東京タクシーセンターから乗務員証が交付され、助手席の前に掲示して資格を持っているから安心して乗ってくださいとお伝えしているわけです。

白タクはかつて、お客様を乗せて遠回りをし、降車時に高額な請求をしたり、お金を払わない客がいたり、トラブルをたくさん起こしてきました。だから国がタクシー会社に免許を与え、車両にも社名表示灯(行灯)をつけている。このような表示はほかのクルマはしてはいけない。こうして秩序を作ってきた歴史があります。

ウーバーを巡るトラブル

── ウーバーはこの白タクにあたると。

海外のウーバーのビジネスモデルを見ると、登録するドライバーは4ドアのクルマを持っていればいいということになっています。スマートフォンのアプリを使って、GPSを使って自分の位置を示し、目的地を入力してドライバーを呼ぶ。料金はクレジットカード払いですし、行先もナビで出ますから、ドライバーは言葉が通じなくてもいいわけです。ウーバーは、登録しているドライバーだから大丈夫ですよ、降りた後にドライバーの評価をしてくださいという。評価が下がらないようにドライバーは愛想よくふるまう。その結果、外国の劣悪なタクシー環境の都市ほどウーバーが支持されていきました。そこで今度は東京という大市場に目をつけて参入しようとしました。

── 現実としてウーバーは参入できていないわけですが、どのような問題があったのでしょう。

業界が反対するのは、もちろん商売の邪魔になるということはありますが、それ以上にタクシーの歴史に絡んだ問題があります。1つは、ウーバーに登録しているとはいえ、誰が来るのかわからない。昔、白タクで問題が起きたから緑ナンバーになり、二種免許になり、企業が営業免許をもらっているわけです。ところが個人で普通免許を持っていれば営業行為ができてしまう。

海外で起こったトラブルを挙げると、ドライバーによる薬物や飲酒運転、女性に対する性的暴行等が報告されています。ウーバーに対する被害女性による裁判はアメリカ、中国、フランス、インド、カナダなどで提起されています。日本のタクシーではアルコールチェックが義務づけられ、ドライブレコーダーが設置されているために、日本では起こり得ない事件だと言えます。

それからダブルワーク、昼間は会社、夜はウーバーで働くとすると、近年長時間労働が批判されるなか、居眠り運転等で交通事故を起こすリスクが高まります。事故の際の保険も、一般の自賠責保険しか入っていなければ、補償がどうなるかさえわかりません。なぜなら、ウーバーは「ライドブッキング事業者」であり、ドライバーと客をマッチングしているだけで、事故が起きても何の責任も負う気がないのです。ウーバーの規約書を読むと、紛争が起きた時にはオランダの裁判所でやってくれということになっています。日本のタクシー事業者は、ドライバーの事故にも、責任を持って対応しています。

ちなみに、ウーバーのドライバーは、個人事業主という位置づけです。募集広告では高給を謳っていますが、車両費、燃料費、整備費、税金等々、すべての経費を負担せねばならず、最低賃金、年休制度や労災保険、失業保険もない。労働条件が悪化しても、ウーバーは、個人事業主は労働者でないから団体交渉に応じる必要はないという姿勢です。ニューヨークやロンドンでは、「収入を維持するためには長時間労働せざるを得ず、利用者の安全が犠牲になっている」と報じられています。

── シェアリングエコノミーの推進派は、その料金の安さを求めているようです。

ウーバーとタクシーを比べて、タクシーが高いのは、保険料や乗務員に二種免許を取らせる費用、アルコールチェック、クルマの整備管理者等々、安全コストが原価計算されている価格になっています。

それからドライバーの税金の問題もあります。ウーバーは米国企業ですから、税金を日本に払っていない。つまり、ドライバーがいくら稼いだのか、所得がわからないから源泉もできない。日本のタクシーは国に対してもきちんと納税して、失業の防波堤としても機能しています。

特にいまは、地方のタクシー会社ほど疲弊しています。お客様がいないなかで、ウーバーが来たら潰れるかもしれない。潰れたあとでウーバーが儲からないからと撤退すれば、何が残るのか。彼らは責任を負わない。お客様のためにも事業者のためにも、国のためにもならないから、反対だと言っているわけです。

── 楽天の三木谷浩史社長が代表を務める新経済連盟が、一昨年10月に「シェアリングエコノミー活性化に必要な法的措置に係る具体的提案」を発表、政府に提出をしています。これはエアビーアンドビーとウーバーを意識しての提案でした。

すべての岩盤規制を壊して、インターネット社会にし、効率を上げてセーブエネルギーにするという、新経連の大義名分の波が、タクシー業界に迫ってきたと考えるとわかりやすいですね。新経連の提案の問題点は、「マッチング事業者が運送責任を負わない」ことです。事故発生時の賠償責任もドライバーに負わせ、安心の確保が不十分です。

また、約34万人のタクシードライバーの正規雇用への影響、反社会的勢力の進出なども懸念されます。タクシーの過去の歴史を見ても、自由化すると反社会的勢力のような人たちが必ず入ってくる。白タクはクルマ1台あれば商売ができますし、密室の空間ですから、誰でもOKではいけない。

飛行機のパイロットも鉄道も船も、みんな免許があり、厳しい罰則もあります。タクシーのドライバーには厳格な二種免許を取らせているわけです。人の命にかかわる産業は、絶対に国が厳格な免許制をもって対処すべきだと思います。

国民の安全を脅かすとともに、地方創生の担い手となる地域公共交通の存続を危うくするライドシェアと称する白タク行為を、断固阻止するということですね。

配車アプリが乱立

── とはいえ、ウーバーは既存のタクシー業界に対して少なからず影響を与え始めていますね。スマホアプリを使った配車システムは、ユーザーの利便性が向上しているように思います。

個人的には、ウーバーのサービスが全部ダメだとは思っていません。シェアリングエコノミーは遊休資産の有効活用というメリットがありますから、誰もが否定するわけではないでしょう。

もちろん我々も、ウーバーに倣っていかなければならないことはあります。タクシーの料金が不安だという声に応えるために「事前確定運賃」を始めようとしています。これは両刃の剣で、渋滞や事故に巻き込まれると、その分の料金が取れないので事業者はつらいのですが、使いやすさに繋がると思います。

また、いまでは配車アプリが乱立している状況になっています。東京ハイヤータクシー協会の「スマホdeタッくん」や日本交通さんの「全国タクシー」、第一交通さんの「モタク」等々、日本でも、日本のウーバーを目指して動き出しています。

東京では、約1万~2万台のタクシーを持たなければ、お客様が呼ぼうにも、近所にいなくて時間がかかる可能性があります。グリーンキャブの約1000台では足りませんから、連合軍をつくって対応するしかない。「スマホdeタッくん」は9300台のタクシーでカバーしていますが、配車アプリは最終的に台数の勝負になるでしょう。ライドシェアに対抗するのであれば、業界が社会インフラとしてみんなで作り上げていくことが求められます。

既得権益とか言われますけど、タクシー事業者もドライバーもみんなギリギリで歯を食いしばってがんばっています。白タクはじめ諸問題を乗り越えてタクシー業界が作ってきた歴史を壊してまでやる必要があるのか。ガラパゴス化してもいいからブラッシュアップしてきた制度を守っていくことも必要だと思います。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

2017年10月号 目次

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