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2018年02月号

「会社から企業へ」がコンセプト 社員個々人が富を生む組織に

林野 宏 クレディセゾン社長

りんの・ひろし 1942年生まれ、京都府出身。埼玉大学文理学部卒業後、西武百貨店に入社。人事部、企画室、営業企画室を経て、同百貨店宇都宮店次長。82年に西武クレジット(現・クレディセゾン)にクレジット本部営業企画部長として転籍し、2000年より現職。音楽やスポーツ観戦など、多趣味な経営者として知られる。『BQ~次代を生き抜く新しい能力~』(プレジデント社)、『勝つ人の考え方 負ける人の考え方』(かんき出版)など著書も多数。

全従業員の「正社員化」

── 2017年の夏に打ち出した、非正規、正規の壁を取り払い、総合職、専門職、嘱託、メイトの分け隔てなく、全従業員を一律に正社員化する試み(同年9月から実施)は、大きなインパクトをもたらしました。

遡ると、私は昔から「初任給の金額は自己申告制にすべき」と進言してきました。当社は前身の緑屋から西武クレジット(現・クレディセゾン)と社名を変えてはいましたが、金融機関を志望する学生は、たとえばほかの大手地銀や大手クレジット会社に合格すると、そちらに流れてしまったのです。

エントランス横奥にあるDJブースは来社した人に与える〝サプライズ〟効果満点。

その原因を探っていくと、学生心理としては「初任給が同じ金額なら、やっぱり大手地銀などのほうがランクが上」という価値観があったんですね。だったら〝初任給申告制度〟というものを作ろうと。この制度はいまも実施してはいるんですけど、あまり高い初任給を申告する学生は、当社には来ないらしくて(笑)。

もう1つ、私は社員のある種の身分制度っていうんでしょうか、これも昔から嫌いでした。社員、パート、アルバイト、嘱託など、職制がいろいろあるじゃないですか。これって、同じ会社の中に変な身分制度があるように見えてしまう。だから、これもなくしてしまうという感覚です。

かつて、業績がすごく良かった頃にストックオプション制度を実施したのですが、私はパートの人たちまで全部、ストックオプションの対象にしましたからね。本当はアルバイトの人たちにも適用したかったけれど、さすがにそれは、ストックオプションの制度上、できないと。当時、パートで働いてくれていた人たちにはずいぶん喜ばれたと思いますし、業務上の士気も上がってきますから。

── なるほど。今回、いきなりドラスティックな施策に打って出たわけでもないと。

考えますと、20世紀は〝就社〟の時代でした。会社が利益を上げて、なるべく公平に社員に分配する。でも、低成長時代とか失われた20年と言われてきたいまの時代、それはできないじゃないですか。会社ではなく社員が利益を上げる、それがすなわち企業というものだと考えます。いわば、「会社から企業へ」というコンセプトですね。そのためには、会社としてではなく、社員が富を生み出すことが大事です。これがイノベーションということでしょう。「会社」から「企業」に生まれ変わるわけです。

企業に変わるためには社員が生まれ変わらないとダメで、そこでダイバーシティや女性の活躍という必要性が増してくる。当社では、女性の活躍はもう、1980年代からやっていますし、男女平等、学歴無用、あるいは過去の社歴も関係なく、中途採用の人も対等に扱うという考え方でやってきています。ただ、一般論で言えば、やっぱり業績が好調に推移していると、どうしても年功序列や男尊女卑といった悪しき慣例が頭をもたげてくるので、それが企業から会社に逆戻りし、衰退させる原因になると思ってきました。

今回は、そういうものを一気に取り払いたいと。人事制度改革だけではダメなので、オフィス環境を変えたのもそういう狙いからです。当社に来られるベンチャー企業の方々は、当社に出資を仰ぎたい、あるいは一緒にビジネスをやりたいという趣旨で来られているので、エントランスの雰囲気は大事ですし、オープン・イノベーションの精神で、ベンチャー企業と一緒に当社も、ともに成長していく。我々はベンチャー・キャピタルやファンドではありませんので、ベンチャー企業に出資して、上場後に株を売り抜けるようなことはしませんから。

「管理」は過去の遺物に

── 将来的には、たとえば週休3日制、あるいはテレワークなども考えていくのでしょうか。

昔は、ダブルインカムというとお子さんがいないご夫婦が、共稼ぎして豊かに暮らすといったイメージが強かったでしょう。いまはそうではなく、たとえば複数の職場に勤めているとか、通勤をしないで済むようにもなるとか、いろいろな働き方があるし、企業への関与の仕方が多様化していくはずです。そうなるとたぶん、ビジネスもそういう働き方の多様化に合わせていくようになっていく。

勤めている会社に通勤するって、実はすごいエネルギーロスじゃないですか。もちろんいい面もあるけれど、何も毎日来なくてもいいじゃないかと。いまはスマホやタブレットがあるので、いつどこにいても仕事のやりとりはできますし、むしろ多様化した働き方が増えてこないと、ダイバーシティといってもなかなかやりにくいでしょう。

ですから、勤め先には週に3日ぐらい来て、基本、仕事は自宅でこなして、仕事を完成形にした段階でそれを持参して会社に来ればいい。これからはそういう働き方にたぶん、なると思っています。たとえば当社のある社員の自宅が、新横浜が最寄り駅としましょうか。ここ(クレディセゾン本社のある、東京・東池袋のサンシャインシティ)へ通勤する往復の、2時間半ぐらいは時間節約になります。

これが毎日となると、社員本人はもちろん、企業側にとってもある意味、ロスですからね。その2時間半ぐらいを自宅での仕事時間に回せば、ゆっくりモーニングコーヒーでも飲んで、「さあ、やるか」と仕事を始めればいいわけで。要は時間でなく成果で判断するっていうことですよ。仮に、明日から別の会社に行ったとしても、十分に能力が発揮できるようにならないといけない。

そもそも、私は管理するという概念が二次産業の考え方だと思っていまして、日本の企業にはなぜ、生産性や柔軟性、あるいはクリエイティビティが少ないかを考えてみると、詰まるところ管理、監督、指示、命令に行き着くんです。これがいわばマネジメントの4つのツールですが、それではクリエイティビティやイノベーションなどが起こりにくくなって当然です。

── 米国ほどではなくても、日本でも多様化した働き方の広がりの中で、社会保険や福利厚生面などでの不安はあるでしょうけれども、フリーランスの立ち場で仕事をしたいという人も増えています。

テレワーク、つまり自宅で仕事をする試みは、当社ではもう、いろいろな部門でチャレンジしています。まだ実験的ではありますが段階的にね。やっぱり我々の業務上、セキュアな仕事環境は整えないといけませんから。フレックスタイムも基本、朝早いほうがいいので、朝8時15分からみんな出勤をしています。その代わり、たとえば夜間に取材が入ったらシフトを組んだりとか、工夫しています。あとは今回の新人事制度の中で、社員がどう運用して、さらにいい制度に育てていくかが大事ですね。人事制度も、進化させるのは会社側ではなく、あくまで社員にあるのですから。

たとえば中途採用ですと、みんながみんなゼネラルマネジャーにならないといけないというルールもなくなり、専門的な職種であっても、スキルのある方は待遇的にかなり上がります。もう、嘱託採用ではなく正社員採用になりましたから、シニアの方のみならず、若手の社員もキャリアの途中から、専門的な職種にも進んでいける自由度が増していますので、働き方も選べる。部下を何十人も率いてという時代でもなくなったかなと思いますね。

カード戦略のこれからを語る林野宏社長。

人事制度の改定に限りませんが、会社からのあてがいぶちではなく、社員自身が試行錯誤しながら、働き方でも何でもフレキシブルにして、より自己実現がしやすくなっていかないと。経営側はそういう環境を整える役目がありますから。

── さて、お話を本業のほうに変えますが、日本ではまだ、キャッシュレス社会は浸透しておらず、うねりの段階かと思いますが、今後の成長戦略はどう考えますか。

我々も、かつては銀行系、信販系、流通系のカード会社と競争していたわけですけど、よく考えてみたら、最大のライバルである〝現金〟とはそれほど競争していなかった。もっと早い段階で現金と競争していればよかったと思います。現金との競争では、キャッシュレスに成長余力があるし、これからキャッシュレスに慣れた若い世代へ世代交代もしていくし、インバウンドのお客様ももっと増えていく。コンシューマー・ファイナンスみたいなものでアジアまでターゲットに置いて、次から次へといろいろなビジネスをクリエイトしていかないといけません。

これだけ企業の内部留保が厚くなってくると、融資が発生しませんし、低金利で良質な資金が豊富ないま、ビジネスチャンスはいくらでもある。また、失敗したとしてもある程度は果敢にリスクが取れるという感触は持っています。

今後はB2B向けに商機

── 今後、のびしろが見込める領域への考え方はどうですか。

国内は、まだまだ手つかずのところがいっぱいあるんですね。たとえば法人需要。人手不足が加速している中、一例を挙げると、交通費やお客様と会食した時などの精算。出金伝票に書いてハンコを押してもらって、後でお金が戻ってくるみたいな図式は、いまやすごい無駄だといえます。

いまは経理担当者も、決算が四半期ごとの開示ですから忙しいし、そもそも、会社で使うべきお金を個人が先に前払いで払って、後から返ってくるというのも変な話。そういう部分でのペーパーレスや決済の簡素化、スピード化を考えれば、新しい事業で未開拓の余地はたくさんあります。法人の決済のところにはマーケットがたくさんあるのです。

たとえば、いま一番困っているのは農家さんとか、あるいは産地直送みたいなビジネスをやっているところじゃないでしょうか。回転寿司のチェーン店さんなんかも、産地から魚を直送してもらうでしょうし、しかも、その時々で捕れた魚の仕入れ値によって、決済がたぶん煩雑なんですね。農家さんや産地直送業者の方々の間に入って、スムーズでわかりやすい決済システムを開発、導入できれば、ビジネスチャンスの可能性はものすごくあります。

── ところで、音楽好きな林野さんですので、最後に音楽のことをお聞きします。エントランスのDJブースが印象的ですが、スポンサードしている番組はリスナーとしてお聴きになっているのでしょうか。

「TOKIO HOT 100」(FMのJ‐WAVE)が放送される日曜日は、土曜日と違って自宅にいることが多いですから結構、聴いていますよ。個人的には、オペラではマリア・カラス(ソプラノ歌手)が好きで、中でも「いつかの夜 暗い海の底に」がすっごく良くてね。もう、感動ものです。

あと、エルビス・プレスリーなら、「アズ・ロング・アズ・アイ・ハブ・ユー」が好きで、エヴァリー・ブラザーズという兄弟デュオも好きですね。彼らがポール・マッカートニーにすごく影響を与えていて、曲の作り方とか華麗なメロディーが特徴です。

したがって当然、ポール・マッカートニーも大好きです。彼が、ポピュラーミュージックでは20世紀最大の作曲家だと思っています。

(聞き手=本誌編集委員・河野圭祐)

2018年02月号 目次

試し読み
段階的に進むキャッシュレス社会 デビットカードも順次浸透する
中東の砂漠を緑に変える 日本の技術が生んだフィルム農法
眼科医療の常識を変える 見えないものを見るレーザー
ホワイトカラーの業務に革命 RPAが導く仕事の生産性の向上
「会社から企業へ」がコンセプト 社員個々人が富を生む組織に
IR CLIP 一家ダイニングプロジェクト
2018年も続くか?ビットコイン狂騒曲