有料購読サービス終了のお知らせ

BOSS ONLINE

2018年03月号

カンボジアでAI人材を育成 世界を見据える情報資産の銀行

林哲也 パイプドビッツ社長

はやし・てつや 1973年生まれ。東京都出身。97年青山学院大学大学院修了後、SAPジャパン入社。2006年デジタルフォレスト入社。10年パイプドビッツ入社。13年取締役CTOを経て、15年代表取締役に就任。

いまやインターネットは企業の業務に欠かせないものになり、企業活動におけるデジタルデータの取り扱いが爆発的に増えている。これらのデータを利活用し、企業の業務に必要なアプリケーションを自由に構築できるプラットフォーム「スパイラル」を提供しているのがパイプドビッツだ。導入アカウントは3459件に達し、さらにAIやIoTの新技術分野にも手を広げる。社長の林哲也氏にAI戦略を聞いた。

オーダーメイドのシステム

── パイプドビッツと言えば、中小企業向けのクラウドサービスというイメージが強かったですが、2015年9月に持株会社化に移行し、体制もかなり変わってきましたね。

確かに10年くらいまでは中小企業向けのSaaSという位置づけでサービスを提供してきましたが、現在は決まった既製品ではなく、簡易オーダーメイドのような形でシステムを作れるようにしまして、PaaS(Platform as a Service)へと製品の位置づけをシフトしてきました。オーダーメイドで提供できるようになったことにより、より大きなお客様のシステム案件ができるようになっています。データ量も昔は5000~1万レコードがボリュームゾーンでしたが、現在では100万~1000万レコードと、大きなお客様の資産をお預かりする形にビジネスが変化してきました。近年は金融業界がFinTechを進めるようになって、銀行等のシステムの領域にベンチャー企業が踏み込めるようになっています。いままで大手のSIerでしか扱っていなかった大企業のシステムに我々のシステムも入っていけるようになり、それに伴ってデータのボリュームも増えてきた感じですね。

「カンボジアの学生は知識や学習の意欲は高い」と林社長。

── IoTやAI(人工知能)といった新技術の開発についても積極的ですね。

我々は「情報資産の銀行」を事業コンセプトに、お客様からデータをお預かりしています。その情報資産をどう活用できるか。様々なサービスを提供していくなかで、AIの領域もつくっていく必要があると思っています。AIの領域では2つ考えていきたいと思っていまして、1つがお預かりしたデータの活用。例えば不動産のお客様なら、この沿線のこの駅の徒歩何分でこの間取りの部屋であれば、賃料はいくらくらいが適切なのかをAIで算定する。多くの不動産屋では、経験と勘にもとづいて賃料を予測していると思いますが、AIを使って妥当なものを導くことができるようになれば、オーナーさんが自分で調べたり、オペレーションのコストを削減したりといったことができます。

もう1点は、弊社はPaaSということで、WEBアプリケーションをいかに生産性が高く、安全につくっていくか。アプリケーションの開発をしていくなかで、セキュリティ上のリスクや効率は、プログラミングの知識や経験が大きいですが、ここにAIを活用することで、知識の少ない人でもより安全に開発の生産性を高められるようにしていきたいですね。

カンボジアに人材育成拠点

── 興味深いのは、カンボジアでAI開発、AI人材の育成に取り組み始めたことです。ベトナムやミャンマーという企業が多いなかで、なぜカンボジアだったのでしょうか。

私はもともと外資系企業からデジタルフォレストというASPの会社にいたんですが、その会社がNTTデータに買収されたことで、パイプドビッツに入りました。1つは世界に出ていきたい、グローバルで開発していきたいという思いがあったからです。しかしながら、いまでは日本で開発者を集めることが難しい。特に良質なエンジニアを採用することがたいへん厳しくなっています。そこで3~4年ほど前から外部のオフショア会社を使い始めました。自分たちでグローバルなオフショアを使うにしても、日本の開発者たちがそれを使いこなせなければ意味がないですから、まずは外部のオフショアリソースを使い始めたわけです。そこはベトナムでした。2~3年やっていくうちに、これならいけると手応えがありましたので、外部ではなく、自分たちでオフショアリソースを持とうと考えました。

中国は、いい人材は日本よりも高いくらいの賃金になっていますし、ベトナムも競争が激しい。ポストベトナムとして挙げられるのがミャンマーですが、すでに大手ベンダーさんが進出していまして、人材競争に巻き込まれる恐れがあります。

実は、デジタルフォレストの創業社長だった猪塚武さんがカンボジアの高原リゾートに「キリロム工科大学」を設立していまして、観光学園都市の開発をしていたんです。そこで猪塚さんにカンボジアはどうかと相談しました。

カンボジアは内戦等で教育はどうなのかというイメージを持たれると思いますが、猪塚さんが知能テストや数学のテストで成績が良い子を選んでITの教育をし、人材として活用できるようにしています。実際、視察に行くと、日本の新卒で優秀な子たちと同じくらいの感じです。ITの能力的にもオフショアでもいけると思いまして、カンボジアに設立しました。

カンボジアのいいところは、外資100%で会社を作ることができ、法律自体は日本が支援していることもあって、似ているところもあります。外資にとっては会社が作りやすい環境があります。ただ、人口がベトナムやミャンマーより少ないこともあって、のちの市場として見ると小さいですので、出ていく企業が少ないのかもしれません。

── 人材は育っている印象はありますか。

昨年の6月からですから、まだまだこれからですね。技術者と言っても2つのレイヤーがあって、1つはAIそのものを作る人。この人材は中国や米国で取り合いになっています。もう1つは、彼らが作ったAIをどう活用できるのか、活用の仕方を考えて作る技術者です。OSを作るのと、OSの上で動くアプリケーションを作ること。この2つのレイヤーのうち、我々は後者の人材を育てています。

── カンボジアでの関心は高いのでしょうか。

インターネットでフェイスブック等をよく見ていますから、知識や学習の意欲は高いです。彼らはAIやブロックチェーンをやれば、グローバルで活躍できてお金持ちになれるんじゃないかという夢を持っていますので、勉強したいと思っているんですね。まだ進出している企業は少ないですから、ポテンシャルのあるいい子を採用できると思います。

HRテックにも期待

── パイプドビッツにとって、AIに関する需要はどのように捉えていますか。

AIもパターン認識だと考えていまして、大きなデータのなかからどういうパターンが導き出されるのか。特に弊社の場合はマーケティング分野でサービスを使われることが多いですので、いろんなパラメーターをもとにAIで分類できるような形にする。ただ、我々もAIとはいえ、機会学習エンジンと言ったりして、確率統計の理論の延長線上にあると考えています。まずはデータを集めて、最適な対応策、リターンを出すというところにフォーカスしています。いままではパラメーターを調整するのもエンジニアが入らないとできなかったわけですが、エンジニアがいなくても自動的に最適なモデルを選び出すような、そういったものを考えています。

── ターゲットとなる企業規模はどれくらいを考えていますか。

企業規模と言うよりは、データのボリュームがどれくらいかですね。

── 小売業はPOSレジもありますし、活用できそうですね。

POSだけでなく、WEBチャネルもありますしね。オムニチャネルのなかで、様々なデータをミックスしたうえで、そのお客様に響くオファーができます。小売りだけでなく、不動産や金融も需要があると思います。そのなかではマーケティング業務は我々の強い分野です。

── 今後はクラウドサービスの「スパイラル」とAIが結びついていくと思いますが、どういった展開を考えていますか。

将来的には、採用や採用後の活躍などに紐づいたデータや、そのようなアプリケーションも作れます。弊社でも個人の業績管理システムを運用していますので、こうしたところも提供できればいいですね。

── 人事用のHRテック(Human Resource × Technology)にも進出すると。

従来の多くの会社が採用や面接をしても、その時のデータがフィードバックされていません。どういう人が退職しやすいとか、経験と勘でやってきたところはAIに置き換えやすい。ただ、現状ではお客様の要望でシステムを組み上げるカスタマイズサービスの形になりますので、専門のHRテックサービスと比較すると、コスト競争力で厳しいです。「スパイラル」を使っているお客様であれば追加で導入しやすいですので、提案の余地はあると思っていますが、商品というよりはまず自社でやってみようと考えています。

ほかにもIoTは情報を集めるためのインターフェースですし、ブロックチェーンもデータベースとして活用できますので、この辺りは積極的にやっていきます。そのためにもアジア圏を第1ステップとして、世界に広げていきたいですね。

(聞き手=本誌編集長・児玉智浩)

2018年03月号 目次

試し読み
ライオンで開花、プラスで進化 アスクル社長のマーケティング力
カンボジアでAI人材を育成 世界を見据える情報資産の銀行
PRマーケティングで 中小・小規模事業の 認知度、信頼度を向上
とまらぬ仮想通貨狂想曲 今年はブロックチェーン元年となるか!?