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2018年04月号

波紋呼ぶコインチェック事件 仮想通貨取引所の健全化を強く期待

沖田貴史 SBI大学院大学 特任教授

おきた・たかし 1977年石川県生まれ。98年一橋大学在学中に、サイバーキャッシュ株式会社(現ベリトランス株式会社)の立ち上げに参加。2005年から10年間、代表取締役を務め、香港上場やアジア展開を加速。2016年5月より、SBI Ripple Asia株式会社 代表取締役。主な公職に、金融審議会専門委員など。

執筆時点の2月上旬では、まだ事件の全貌が明らかにならず幾分推測も入ってしまうが、コインチェックの事件を、本稿が避ける訳にはいくまい。

発端は、1月26日である。同日の正午過ぎ、同社においてNEM(仮想通貨の一種)の売買や出入金が、突然停止された。夕方には出入金の全てが停止され、ビットコインを除く全ての通貨の取引が停止された。

相前後して、ブログやSNSなどで事件が噂され始め、深夜23時30分になり、同社が緊急の記者会見を実施し、保有する5億2300万XEM(NEMの通貨名:盗難時点で580億円相当)が、不正アクセスによって流出、盗難されたと発表がなされた。

正式発表以前は、かつてイーサリアム上で起きたDAO事件で行ったような「ハードフォークによる救済」(該当取引を削除した新たな台帳を作成し、取引そのものをなかったことにする)も期待されたが、記者会見において、その可能性は非常に低いことが明らかになり、淡い期待は消え去った。

加えて、記者会見で明らかになったのは、上記の被害総額の甚大さに加え、セキュリティ管理の問題であった。同社は、webサイト上において、「コールドウォレット」と呼ばれるインターネットから切り離された環境で仮想通貨(厳密に言えば、秘密鍵)を管理することにより、かつてマウントゴックス社において発生したような盗難事件は起きづらいと説明していたが、実態としてはホットウォレットと呼ばれるインターネットに接続された環境に、XEMについては全額を入れたままにしており、その結果、巨額の盗難事件に繋がってしまった。

また、記者会見では「マルチシグ」と呼ばれる複数の暗号鍵で管理する手法も取り入れられていなかったことも、明らかになり、強く糾弾する記者も出るほどであった。事件そのものは大変残念であり、被害者の方々の心痛は察するに余りあるものの、これらの一連の報道により、事件以前では、関係者の間でしか語られなかった専門用語が一般にも知られるようになったことは良いことであると考える。また、個人が保有する仮想通貨に関しては、「取引所に預けておく方法」の他に、各自で管理することも可能であり、そういった手法の存在が、比較的広く知られるようになったのも、大きな前進だと考える。

一方で、そのような管理方法は決して万人向けではなく、現実的には、取引所に管理を委託することが、引き続き主流になるだろう。これまでも、取引所は事業者登録にあたって、資金の分別管理が求められていたが、現金だけでなく仮想通貨を含めた預かり資産のより安全な管理が期待される。

まずは預け入れ資産の返金が正しく実行されるかどうかに注目が集まるが、資産管理の他にも、今回発覚している問題は数多い。

それらを教訓として、新たな規制を求める声も多いが、これらの点については、規制強化を待たずとも、関係者による自浄作用が自発的に起き健全化が進むことを期待するとともに、自らも関係者のひとりとして牽引していくべきだと考えている。

2018年04月号 目次

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