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2019年01月号

“VR動画配信” 最大手の次の策とは

松本勇気 DMM.com CTO(最高技術責任者)

まつもと・ゆうき 1989年生まれ。DMMをテックカンパニー化するミッションのもと組織や技術全体の改善を推進。学生時代より複数社の立ち上げ後、Gunosyの創業直後に参画。CTO 兼 新規事業開発室担当としてグノシーやニュースパスといったプロダクトの立ち上げから拡大、組織改善、またVR/ARなどの新技術系のR&Dを担当。直近はBlockchain事業子会社であるLayerXの立ち上げも担当。

2018年10月11日、DMM・com に新しいCTOが就いた。前Gunosy CTOの松本勇気氏だ。

 ニュースアプリで有名なGunosyの立ち上げ直後から参加し、テクノロジーの面から成長を支えてきた松本氏は、DMM・comをテクノロジー企業に革新し、さらに今後の成長の軸として、VR事業を挙げているという。

「DMM・com VR動画」で国内のVRの知名度向上を担った同社は、新CTOとともに、動画配信の次の一手としてVRをどう活用していくのだろうか。急きょ話を聞いた。

松本新CTOのもと、DMM.comは本格的にテック企業へと変貌していく。

Gunosyから参入

―― Gunosy在籍時から、VRに関心があったのですか。

Gunosyはスマホという新しいデバイスに特化したニュースアプリで伸長しました。だから常に新しい技術にフォーカスし、乗り遅れないよう目を光らせてきたんです。

 私はCTOとして、新しい領域のテクノロジーがR&D(研究開発)のフェイズなのか、事業化できるのかを見定める役割も担ってきました。スマートスピーカーや、今年8月に「LayerX」を設立して事業化したブロックチェーン。そのなかで私がもっとも興味を惹かれたのが、実はVRだったのです。

―― 今回の就任は、前CTOの城倉和孝氏(現同社CIO)からの打診がきっかけですね。DMM・comという会社には、どんなイメージを持ちましたか。

 この会社は、日本ではすごくユニークなポジションなんです。非上場なのに売上規模は2000億円を超え、しかもステークホルダーは亀山(敬司)会長ひとり。つまり意思決定がスタートアップよりも早いんです。新規事業の着手・撤退・他社の買収・資金調達も含め、会長が面白がってくれればポンと決まる。こんな速度で市場を狙いにいける会社はほかにありません。潤沢な売上げで、VRのような息の長い事業にも取り組むことができます。

 実は、Gunosyを離れてから、起業してVRを含めた新規事業に注力したいと思っていたんです。でもDMM・comのほうが起業するより面白い。オファーがあったことは本当にラッキーでした。

 私がDMM・comに来た以上は、もっとテクノロジーに特化したスタートアップ的な戦い方の会社にしていきます。

VRの「入口」を獲れ

―― VRをやるために就任してきた印象すら受けますね。具体的にはどんなVRビジネスに可能性を?

「クラスター」や「シナモン」(前項参照)のようなソーシャルVRの領域には、当社でもはじめに取り組みたいと考えています。

 私たちは生活時間の相当の部分を、メール・SNS・ニュースアプリなどを通して、インターネットの向こうに意識を向けながら過ごしています。その時間が今後VR空間にスイッチされると考えることはそう不自然ではありません。

そうしたとき、LINE・Twitter・グノシーなどにあたるネットワークの入口がVRにも必要になりますが、VRコンテンツにアクセスする入口の形は、まだ決定的なものがでていません。そのひとつの可能性がソーシャルVRだと考えています。私たちが街を歩きながら商品やサービスを発見していくように、仮想空間のなかでVRコンテンツにめぐりあう体験がつくれるのではないでしょうか。

―― しかし、現状はB2C市場は小さく、B2B市場で訓練や教育に活用するほうが、確実にお金を生む状況になっています。

確かにいまのコンシューマー向けのサービスは、施設型を除けばセットアップも大変で、誰でも使えるものではありません。これはPCに例えるならWindows 95より前の、設定も難儀でバグも多かった時代のOSのようです。これから、各家庭にVRデバイスがいきわたり、インターネットが普及し始めたくらいの段階に入っていくのではないかと予想します。

―― とはいえ2016年ごろには、18年にはもっとVRは社会で存在感を持っているとの予測もあったわけです。なぜ、まだ企業向け、アーリーアダプターのためのものにとどまっているのでしょう。

「VR元年」と呼ばれた2016年の盛り上がりには、私は懐疑的だったんです。ハイスペックなPCと接続しなくてはならず、しかも価格も高いHMDは、テレビとスマホで事足りるいまの家庭にはなかなか入っていけませんから、現状の普及度は当然だと思います。Gunosyで検証した際にも、VRは事業化に至っていません。

 しかし、これからは違います。かぶるだけですぐに使える一体型・6軸自由度のHMDが競争の主軸になる。スマホ規模の普及は難しくても、据え置きのゲーム機くらいは目指せるのではないでしょうか。

現実にHMD「Oculus Quest」は、多くのスマホより安価です。スマホは大手キャリアが2年しばりの分割払いで大量に販売し、普及しました。それと同じことを当社がHMDでやってもいいかもしれない……いえ、現状そういう計画はないですよ(笑)。ただ、そんなムチャクチャが許されるかもしれないところが、この会社の凄さでもある。

―― VRデバイスの開発も視野に入りますか。

 興味はありますが、やはり事業規模の桁が違ってくるので、収益性も含めて慎重に考えたいところです。私は、本質はソフトウェアだと思います。動画・ゲーム・イベントなどのVRコンテンツにアクセスするプラットフォームを担えることが理想ですね。入口を押さえることがとにかく大事です。

当社は世界でも類を見ない豊富なVRコンテンツを抱えている。それを最大活用してポジションを取りに行きます。ゲームは自社からも開発提供したいと考え、新しいチーム編成を検討中です。5分くらいで楽しめるカジュアルなVRゲームの量産体制を構築したいですね。買収も視野に入れ、社内外から広く人材を募っていきます。

都市とジャングル

―― 松本さんはVR以外にもさまざまな技術に精通していますね。VRと組み合わせて相乗効果のある技術は何でしょう。

 まず、同時接続技術。VR内の環境を同期しながら数千人が同時に遊べるゲームエンジンなどのテクノロジーは非常に重要です。

 次に、ブロックチェーンです。VRはまるごとデジタル空間ですから、VR上の通貨の生成・決済・法律執行などには、現実空間に適用するよりもはるかに相性がいい。例えばVR上の土地の唯一性を担保し、仮想通貨で売買・権利譲渡・分配・収益還元するなどがブロックチェーンにて自動で行われる新しい資本主義形態が実現可能かもしれません。

 また、IoT技術も注目です。あらゆる機器がネットワークに繋がれば、現実からVR空間に没入するだけでなく、逆にVRから現実空間に働きかけられるようにもなる。

―― そこには危険性もあるのではないですか。ユーザーの不満としてよく挙がる「VR酔い」も、VRから現実への働きかけの一種です。

 極端な例ですが、最近ではソーシャルVRの「VRChat」内にユーザーが「ギロチン」を設置し、アバターの首を落とす事件がありました。衝撃的だったのは、損傷したのはアバターなのに、現実空間のユーザー自身にも痺れ・不快感・混乱などダメージが残ったことです。

 VR空間が現実空間におよぼす肉体的・精神的影響については、企業の努力や心理学の分野からの慎重なリサーチが必要です。サービス内のユーザーの行為を管理することもプラットフォーマーの仕事です。

初期のiPhoneは、リリースされるアプリに非常に厳しい審査を行っていて、だからこそ普及しました。VRでもコンテンツの品質を担保していかなくては、悪質なVR体験でユーザーを失いかねません。

―― しかし、どこまで管理できるものでしょうか。安全無害な体験ばかりになってもつまらない。

 徹底的に規制をかけるよりも、ユーザーに適切にガイドを出してあげたいですね。たとえば、VR空間をゾーニングして、安全なコンテンツが揃っている都市ゾーンと、ちょっと実験的でリスキーなコンテンツがあるジャングルゾーンに分かれていてユーザーが判断できるとか。

VR空間の姿はこれから考えていきます。私たちの住む町並みの模倣も可能だし、物理法則すら異なるまったくの異世界になるかもしれない。世界がまるごと構築できて、そこに多くの人が参加できる時代が来る予感に興奮しています。

2019年01月号 目次

試し読み
“VR動画配信” 最大手の次の策とは
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