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2019年02月号

商用化に入ったブロックチェーン SBIはどう関わるか

ブロックチェーンで送金

10月4日、SBI RippleAsiaが事務局を務める「内外為替一元化コンソーシアム」において、参加銀行と共同開発したスマートフォン用送金アプリ「Money Tap(マネータップ)」の提供が開始された。

マネータップは米リップルのブロックチェーン技術が採用されており、24時間365日対応の送金アプリ。QRコードや電話番号でも送金できるのが特徴で、現在サービスに参加している住信SBIネット⇄スルガ銀行⇄りそな銀行の3銀行間の送金であれば1回3万円、1日10万円を上限に送金手数料ゼロ円。送金にかかる作業も30秒ほどしかかからず、相手口座にほぼリアルタイムで着金するなど、非常に利便性の高いサービスになっている。

「ユーザーの取引の、約半分くらいが1000円以下の少額取引です。おそらくほとんどの人が100円の振り込みを銀行でしたことがないと思います。それは100円の送金に300円ほどの手数料がかかってしまうからです。食事をして割り勘をする時にも、振り込みだと手数料も手間もかかるため、現金を財布から出したほうが早いから現金を使います。マネータップなら財布から現金を出すより早く無料でお金のやり取りができます」

SBI Ripple Asia社長の沖田貴史氏(右)とSBIホールディングス執行役員ブロックチェーン推進室長の藤本守氏。

こう語るのはSBI RippleAsia社長の沖田貴史氏。リップルのブロックチェーン技術の商用化や銀行、証券、カードなどのコンソーシアムの事務局を務める。マネータップは、将来的な国際送金や振り込みのあり方を変える第一歩。SBIグループが目指すブロックチェーンのエコシステムにとって商用化の先兵的な存在だ。

「従来の銀行間の振り込みは、全国銀行資金決済ネットワークが運営する全銀システムを通して送金されていたため、銀行にとって送金にかかる原価が発生し、高い手数料を利用者から取らなくてはいけませんでした。しかし、このリップルのシステムを使うことで、銀行に発生する原価はなく、24時間無料になります。従来取っていた手数料のぶんを、利用者に還元したらどうですかという提案でもあります。

多くの利用者の場合、実際に銀行と持つ接点は、ATMで月3回くらい、窓口に行くことは数年に1回くらいという方が多い。つまり、銀行から見れば利用者との接点がなく、わずかな接点で投信などを売り込まなくてはいけなくなります。マネータップの場合は週に数回、多い人は1日何度もアプリを使って送金をします。このサービスは、ユーザーにとっては利便性がよく、安く早く送金できますが、銀行さんにとっては儲けてもらうというよりも、利用者との接点を増やし、そのなかで新しい商売をしませんか、という新しい価値を提供しています」

住信SBIネット銀行の場合、マネータップを使った同行間の送金が増えているという。もともと住信SBIネット銀行では、同行間の振り込み手数料が無料だったにもかかわらず、マネータップユーザーが増えている。これは手数料だけでなくマネータップの気軽さ等、UXの高さを示していると言える。今後の課題は、現在3行にとどまる参加する銀行数を、いかに増やすか。

内外為替一元化コンソーシアムには、メガバンクをはじめ多くの地銀などが参加しているが、まだ実証実験等の様子見が多く、積極的にブロックチェーンの活用には至っていない。しかしながら金融庁は2020年までにオープンイノベーションに取り組むよう指導しており、今後の展開が気になるところだ。

得意分野を活かした商品

SBIグループがブロックチェーン推進室を立ち上げたのは16年のこと。その室長を務めるのがSBIホールディングス執行役員の藤本守氏だ。ブロックチェーン推進室の役割も、年々、技術の向上とともに変化してきているという。

「グループに『ブロックチェーン会議』が立ち上がることになりました。代表の北尾を中心に各社代表を集め、ブロックチェーンをグループ内およびグループ各社が所属している業界で普及させることを本格始動することになります。

もともと16年に推進室ができた時は、リップルとのジョイントベンチャーをつくることは決まっていたのですが、まずは研究して、勉強を進める展開でした。17年から実証実験を開始し、18年には実証実験を終了させ、19年から商用化に向けて走るということを進めています。推進室としては、我々はインキュベーションをする部署ですから、インキュベートされたものを受ける事業体をはっきりさせる必要があります。これから全社を巻き込んで推進しますので誰がどの技術を引き受けて伸ばしていくのかという仕事になります」(藤本氏)

ブロックチェーンについて実証実験を進めている企業は多いが、それは数ヵ月から半年と期間が限定されたもの。SBIグループではもはや商用化が前提になっているため、継続性の担保がもとめられるようになる。そのため事業会社を巻き込んだ段階へと一段進むことになる。

しかしながら、ブロックチェーンの導入は、ただ入れればよいというものではなく、より効果的にサービスを作ることが求められる。前述の沖田氏は次のように語る。

「もともとブロックチェーンを謳う企業には、汎用型のモデルを提供する企業が多かったです。しかし、リップルは送金という特定の分野に特化したブロックチェーンに強みを持っています。AIなどでもそうですが、実は特化型のほうが、商用化が早い傾向にあります。ですからブロックチェーンとひと言で言ってもこの事業にはどのツールを使うのか、組み合わせが正しくなければよいサービスは生まれません。その目利きが成否のカギになります」

SBIグループでその目利きに長けた存在が藤本氏だ。

「ブロックチェーンは単体で何かできるというシロモノではありません。あくまで基盤のインフラみたいなものですので、例えばマネータップには送金の技術だけでなく、生体認証を入れましょうとか、AIを活用しましょうといったブロックチェーンとは無関係な技術も使い、組み合わせて、最終的に案件に対して必要なものを集めなくてはいけません」

内外為替一元化コンソーシアムではリップルのブロックチェーン技術「RCクラウド2・0」を利用して送金アプリを開発したが、18年1月に設立された「ブロックチェーン技術等を活用したペイメントカード業界コンソーシアム」(以下カードコンソーシアム)では、分散台帳技術(DLT)に重きを置いたため、R3の「Corda(コルダ)」を使用。すでに実証実験に採用されている。コルダは、必要当事者にのみ必要な情報を共有することが可能という特長を有するため、ノード間のデータ連携・共有を共通のコルダのアプリケーションで実現できる。ひと言でブロックチェーンと言っても、そのシステムによって得意分野が大きく異なるため、どのシステムを採用するかが事業の成功に関わってくる。

また、やはり優れた商品は、ブロックチェーン企業の力だけでは作るのが難しいという。

「ブロックチェーンの企業はブロックチェーンのことについて詳しくても、銀行の業務は知りません。そうした企業に金融の業務を学んでもらうのは難しく、既存の金融に関わるシステムを知っている方たちを巻き込むことで、よりよい商品を提供できます。SBIグループも単独では限界がありますので、世界中のプロックチェーンのトップ企業を巻き込みながら作っていかなければいけません」(沖田氏)

単独で導入するだけではその効果は限定的なものになる。いかに周りを巻き込むかも重要な成功の要素だ。

「ブロックチェーンは1社が抱えて何かやろうというものではなく、たくさんの企業が参加することが大前提の基盤です。その業務に合うケース、合わないケースも存在しますから、合うケースを探して持ってくることが求められます。金融機関のエントリーポイントとして入りやすいのが、顧客情報や顧客の本人確認です。この部分を共有化できないかという提案です。金融機関は法律で本人確認が義務付けられていますから、みんな同じことをしなければならない。そういうところを共有化し、情報を共有化する。不正情報の共有などは社会的にも意義がありますから、複数社にまたがって共有するメリットを訴えるわけです。みんながやることに意義があるものを探して当てはめれば、コストも安くなるし、メリットも大きい。こういうユースケースを探すことで業界全体にブロックチェーンを広めていく」(藤本氏)

世間の反応が変化

コストも下がり、社会的な意義も高ければ、メリットは十分にありそうなのだが、現実的には導入に踏み切る金融機関がまだまだ少ない。

「これまでに各社が相当な投資をしています。証券業界であれば、日本証券保管振替機構という中央の組織ができてしまっているので、ここに影響を及ぼす変革に対するコンセンサスを取っていくには相当ハードルは高いです」(藤本氏)

こうした理由から、各コンソーシアムでは利害対立のない部分から始めている面が大きい。しかしながら将来的にはほふりもSWIFTもいらない世界を目指しているのがSBIグループの考え方だ。その取り組みもあってか、ブロックチェーンに対する反応も変化しているという。

「R3 Marketplace」(https://marketplace.r3.com/)

「R3の担当者と保険業界のブロックチェーンの取り組みについてヒヤリングに回ったのですが、実証実験としか思わない会社も結構あります。もうどうビジネスに活かすかという段階に変わっているんです。

しかし、ブロックチェーン=ビットコインと思う方は少なくなってきていて、それぞれを別のものとして、ブロックチェーンには可能性があると認識している人も増えています。やはりブロックチェーン上に使えるアプリケーションができてくると少しずつ変わってくる。R3の取り組みとして、マーケットプレイスという、アプリストアのような形でR3が実際にやってきた実証実験のアプリケーションなどがリストアップされています。興味があったらコンタクトしてくださいということを10月から始めました。ブロックチェーンは何に使えるということが浸透していくと、商用化にも繋がります。我々としては、日本におけるブロックチェーン普及の呼び水として『SBIがまずやってみました、みなさんもやってみませんか』というアプローチで進めています」(藤本氏)

すでに国際標準化機構(ISO)ではブロックチェーンの国際標準化に向けた議論が始まっている。世間に普及する日はもうそこまで来ているのかもしれない。

2019年02月号 目次

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