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2019年02月号

WEB広告業界に新展開 大型経営統合の謎

宇佐美進典 VOYAGE GROUP社長 CARTA HOLDINGS会長 (19年1月1日より)

うさみ・しんすけ 1972年生まれ。96年現デロイトトーマツコンサルティングに入社し大手金融機関の業務改善プロジェクトやシステム化プロジェクトにコンサルタントとして従事。その後ソフトウェアベンチャーを経て99年アクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)を創業。19年1月1日よりサイバー・コミュニケーションズと経営統合し、カルタホールディングスへ枠組変更。

2017年の日本の総広告費は6兆3907億円。うち23・6%を占めるインターネット広告費は年々増加し、地上波TV広告の28・4%に迫る(電通発表)。今や広告の主戦場はインターネットに移りつつある状況だ。

 11月15日、VOYAGE GROUP(ボヤージュG)とネット広告大手のサイバー・コミュニケーションズ(CCI)が経営統合し、持株会社の「CARTA HOLDINGS(カルタHD)」の設立が発表された。独立系のボヤージュがなぜ電通100%子会社のCCIと経営統合するに至ったのか。ボヤージュG社長の宇佐美進典氏に、統合の経緯と今後の展開について話を聞いた。

宇佐美社長。CCIとの経営統合について語る。

意外な経営統合

── 突然の経営統合の発表に驚きました。どんな経緯で今回の話になったのですか。

19年1月1日に当社を枠組変更して電通の連結子会社のカルタHDを設立。当社とCCIはその傘下に入るという形です。

当社はSSP(サプライサイドプラットフォーム)・DSP(デマンドサイドプラットフォーム)・アドネットワークなどの自前で開発した技術を核に、ネット広告事業を主軸に戦ってきました。

企業として次の成長フェイズを考えたとき、今までのように自力で伸ばしていく方向だけでなく、それ以外にも成長策を検討するなかで、1年ほど前から電通さんと話を始めていたのです。

── まずボヤージュ側から電通とコンタクトをとったわけですか。そこから電通の100%子会社であるCCIとの提携につながったと。

 統合相手のCCIは電通グループですが、やはり広告営業に特化した会社なのですか?

 いえ、そうでもないですよ。営業といっても広告主への直販ではなく代理店向けの間接営業を主とするメディアレップです。広告のプランニング・レポーティング・入稿などのオペレーション業務も相当扱っているし、体育会系のイケイケドンドンな社風ではありません。

 新澤(明男)社長はCCIの立ち上げ時にソフトバンクから出向してきた方で、20年も勤めている、ある種叩き上げの社長です。

── 将来的には完全に一体となる計画なのですか?

 カルタHDは、ほぼ役員だけの純粋な持株会社です。私が会長、CCIの新澤さんが社長に就きますが立場は平等で、詳しい役割分担はまだ決めていません。ボヤージュもCCIもそれぞれの会社を残して事業を継続し、決算も両社から持ち寄り、カルタHDとして発表します。経営統合でどれだけシナジーがあり、業績に反映されたか株主にも見える形にしたいと思っています。

 両社はカルチャーも違います。CCIは広告の会社で、本社は東銀座。スーツを着て仕事をしているような社員が多い。対して当社は渋谷のIT企業で、従業員の半分がエンジニア。雰囲気も自由な感じです。両社をマネジメントコストをかけて無理に一緒の会社にするより、それぞれの良さを守るほうがいい。

給与体系も異なりますし、両社で活発に人材を異動させるというよりも、お互いのオフィスに社員が常駐するというような形がいいかもしれませんね。とはいえ人材交流がないとシナジーが生まれにくいという部分もあるので、最適な形を考えていきます。

── 2社は得意な事業領域が異なるとはいえ、それぞれ好調に利益を出している会社です。単なる業務提携ではなく、わざわざ持株会社を設立して資本業務提携をした理由はどこにあるのでしょうか。

 確かに、得意な領域は違います。当社はインストールや販売などの成果をあげるパフォーマンス広告、CCIはブランドを認知させるための広告の分野が強い。取引先もクライアントも異なります。しかしどちらのモデルも、重要になるのは誰にどんな広告を配信していくか最適化するテクノロジーです。現在、CCIは海外のプロダクトを使っている部分が大きいのですが、ボヤージュのコアテクノロジーをカスタマイズしながらそこに活用すれば、より質を高められる。それが今回の経営統合のひとつの肝です。

 ITのサービスは、日々シームレスに変化しています。中途半端に提携しても、マージンの比率などの力学が働いてしまう。ならば技術の部分をボヤージュが、顧客開拓をCCIが担当して一緒に共創性の強い事業をしていったほうが、結果的にサービスを提供する広告主さんのためにもなる。

電通の思惑は?

── 意外だったのは、上場を維持しつつ、電通側がマジョリティを持つ形になったことです。

 当社は2012年までサイバーエージェントのグループにいましたし、上場まではポラリス・キャピタルがマジョリティを持っていました。外部資本が入ることに関しては、社内でも拒絶感は少なかったですね。

電通側からすれば、いままでのように自分たちの力だけで戦ってきたスタイルから、他の会社の力を借りる方向に舵を切ったのだと思います。一種のオープンイノベーションの意味合いが強いのではないのでしょうか。

── 電通側もインターネットの領域でうまくいっていないという焦りがあったのでしょうか。08年から続いていたオプトホールディングとの資本業務提携も、17年に解消してしまいましたし。

 それもあるでしょうが、持ち前の企画力をテクノロジーと結びつけ、付加価値をつけていく部分に課題を感じていたのではないかと思います。特にグローバルの広告主は、マス広告に加えてデジタル広告も強めてほしいとのニーズが強くなっている。

 1件数千万円から数億円規模のマス広告と、1クリック100円単位の収益を積み上げていくデジタル広告の事業者は、いままで全く別々に発展してきたのですが、その状況が変わりつつあるんです。

 18年10月にサイバーエージェントの「AbemaTV」と、電通(5%)・博報堂(3%)が資本提携したことは象徴的です。TV番組をスマホで視聴したり、TVとYouTubeでほとんど同じ動画広告が配信される現代では、ユーザーや広告主にとっては領域の差を感じません。時代の変化に伴い、業界の壁も取り払わなくては。

── カルタHDの持株比率は電通が53%。CCIの企業価値とは釣り合っているのでしょうか?

 CCIは当社と比べ売上は1000億円規模で3倍。粗利では1・3倍。営業利益ベースでも今季は少し多いくらいの規模を持っている。事業規模からも53%という割合は妥当なところです。

 それでも、電通側にとってCCIというデジタル戦略上非常に重要な会社を100%子会社から切り出すのは大きなリスクです。保有率53%は、連結を維持する事業スキームにおいて譲れなかったでしょう。

 一方では我々は上場を維持したままでこの計画を実行することが、譲れないラインでした。

企業風土を守る意思

── ボヤージュは広告以外の事業も持っていますね。ポイントメディアの「リサーチパネル」「ECナビ」、就活サービスの「サポーターズ」、他にもゲーム・化粧品・家事育児支援サービスなど広範です。こうした別領域にはどんな影響が及ぶのでしょう。今後は広告専業の会社へと進んでいくのですか。

 経営統合によって事業全体に占める広告の比率は今までより大きくなりますが、ボヤージュとCCIを会社としてそのまま残す意味は、当社が育ててきたインターネット領域のなかでの新規事業を引き続き育ていくということです。

採用も人事制度もこれまで通り自前でやっていきます。当社には広告以外の挑戦的な事業があることが働く動機になっている社員がとても多い。効率性を最優先し広告だけを扱うつもりはありません。

── なるほど。特にインキュベーション事業など、ITベンチャーならではの知見を活かした若い人への支援は是非続けていってほしいですね。

 現在も社内から新たな事業は立ち上がってきているのですか。

 今でも社内で定期的にビジネスプランコンテストを行っていますし、社外へも累計約30社に投資しています。そのなかの何社かはIPOにも至っています。

── 投資先は、やはりアドテクに関する企業が多いのですか?

 そうですね。しかし、その広告まわりも新しいツールは出にくい状況にあります。バナー・テキスト・動画と進化してきましたが、プラットフォームがスマホから進展しない限りは、ニッチなニーズしか残されていなさそうです。ですから今後はネットの中で閉じていた広告を、リアルな購買データや視聴データなど現実空間とどう連携していくかが鍵になる。

 今回の経営統合は、ボヤージュ・CCI・電通だけの話ではなく、日本のインターネット業界にとって大きな意味があると思います。大企業とベンチャーがうまく付き合い、インターネットとリアル空間の融合を実現していくための取り組みだからです。

 カルタHDをインターネット広告で圧倒的な存在感を持つ企業に成長させることができれば、その後にも業界をまたいだ交流が続いていくでしょう。日本での今後のM&Aや経営統合にひとつの道筋がつけられるような成功モデルにしていきたいと思っています。 

(聞き手=本誌・祢津悠紀)

2019年02月号 目次

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