BOSS ONLINE

2019年02月号

“小売の革新者”の試行錯誤 アマゾン食品・飲料ストアの10年

アマゾンジャパン 消費財事業本部 食品&飲料事業部兼商品企画事業部 事業部長  吉沢直大

アマゾンジャパンの食品・飲料ストアが2008年10月に日本にオープンし、10年を迎えた。 「地球上で最もお客様を大切にする企業」とのビジョンで、徹底した顧客主義を掲げるオンライン購買の巨人が、日本の小売業にも大きな影響を与えたことは周知の通りだ。そのビジネスは日本の消費社会にも浸透しつつある。

購買習慣に新しい嵐を

楽天西友ネットスーパーやセブンネットショッピングなどの後発競合が続々登場する食品・飲料のオンライン購買。その最前線はどのようにできあがったのか。

同社食品・飲料ストアの10年を、吉沢直大事業部長に聞いた。

「コンビニで飲みたいときに嗜好性の高いドリンクを買う。スーパーでいろいろな日用品をまとめて買う……。そうした購買習慣は私たちの生活に根付いていますよね。

そんななかで、当社はなじみの商品が継続的に自宅に届けられて消費する、という新しい習慣を育てようとしてきました。そのためにどんな商品・サービスが必要なのか? さまざまな手法で利用者の声を収集・データ化し、取引先とともにストアの充実を図ること。その繰り返しの10年間でした。

 他領域の商品と比べ食品・飲料は購買頻度が高く、アマゾンに親しみを持ってもらいやすいストアです。一方で、安全性・信頼感がなければ利用されない分野でもある。緊張感を持って取り組んできました」

 中規模スーパーの取り扱い点数は約5000点だが、同ストアは「地球上で最も豊富な品揃え」との理念の通り、実に数十万点を扱う。

「日本の食の豊かさ・関心の高さは、当社の食品・飲料ストア事業で実感します。常においしい食べ物の話題が起き、テレビ・有名人のブログ・YouTubeなどで紹介された商品に注文が殺到するなどの現象は、海外と比較しても圧倒的な規模です。我々はどこよりも多い商品数でその需要の受け皿となりたい」

 通常の小売りのバイヤーは最大公約数のニーズに訴求する売り場づくりを目指すため、商品を目利きして絞り込む。しかしアマゾンのバイヤーの仕事は逆に品揃えを広げること。どんなニッチなニーズにも応え、需要を触発するためだ。カスタマーレビュー・商品ページの閲覧数・注文数などのデータに目を光らせ、規模拡大と品質向上に努めてきた。

 同社の事業モデルはメーカーから仕入れる直販形式と、販売事業者がストアに出品した商品の売上から手数料を得る形式に大別される。直販は缶詰やシリアルなどの定番商品が多く、おせちなど季節商品は、多くが販売事業者による出品だ。

アマゾンジャパン 消費財事業本部 食品&飲料事業部兼商品企画事業部 吉沢直大事業部長

どちらにしても、商品が売れなければビジネスが成り立たない。必然的に仕入れ先のメーカーと、商品を出品する販売事業者の両方の支援を手厚くする方向に進展した。

「商品ページは基本的にメーカー様や販売事業者様のセルフサービス。実店舗でPOPを商品につけるなどの販促は非常にコストがかかり、企業の体力にも左右されますが、アマゾンでは小さな企業でも素材を揃えればリッチなページを作り込める仕組みです。販促キャンペーンを提案し、消費者に選ばれやすいパッケージや容量などの商品デザインをアドバイスすることもあります」

オリジナル商品に参入

 吉沢氏は16年からの消費財系プライベートブランド商品(PB)を立ち上げた人物でもある。途方もない商品数をかかえながら、なぜ自ら商品を作ろうとしたのか。

「まず、定番商品の品質を保ちつつコスパを上げること。シーチキンさんとダブルネームで缶詰を売り出したりもしている。より買いやすい価格に設定できています。

 次に、アマゾン限定・先行販売の商品を揃えること。これらは斬新で挑戦的な商品が多く集まります。当社でまず売り出してお客様の潜在的なニーズを探り、実店舗へ規模拡大していった商品も多いのです」

 いわばアマゾンは新商品の実験場としての側面も持つわけだ。その最新事例と言えるのが、亀田製菓の「フリカキックス」。これは看板商品の柿の種を粉々に割ってふりかけにしたまさに破壊的なアイデア商品で、アマゾン社員が亀田製菓の工場を視察した際の一言がもとになって開発されたという。

 いまやコンビニやスーパーで当たり前になったPBには陰の側面も指摘されている。PB商品が既存商品より優先され、売上・仕入れを圧迫するのではないかという問題だ。

「確かに実店舗なら、PBのせいで陳列棚から外される商品が出てくれば、メーカー様側は困りますよね。しかしアマゾンの売場には空間の制限がない。当社としても、取引の総需要が上がる方向で進められます。

 さらに私たちのPBの存在は、メーカー様側がお客様によりよい商品を提案するきっかけにもなっています。PBと既存のNB商品が食い合うというより、お互いに触発しあう良質な競合関係が生まれています。

 例えば、飲料水のカテゴリでもっとも売れている『キリン アルカリイオンの水』は、〝通販で注文すると段ボールが邪魔になる〟という意見をくみ取り、畳んで持ち運びやすい包装用段ボールを開発しました。『アサヒ おいしい水 天然水』では、〝ボトルのラベルを外して捨てるのは面倒だし、エコじゃない〟という声から、あえてラベルをつけないパッケージを投入してきた。これらはアマゾン限定で販売され、結果的にお客様にとって魅力的なストアづくりにつながっているのです」

顧客主義・データ主義によってメーカー側にも確かなシナジーを実現し、新しい購買文化を確立しつつあるアマゾン。一方でその存在は、どんな常識も塗り替えることができると自ら証明している。では小売業に次の嵐を巻き起こすのは何者か。

それが自己進化したアマゾン自身である可能性も高い。

2019年02月号 目次

試し読み
商用化に入ったブロックチェーン SBIはどう関わるか
IR CLIP 幸楽苑ホールディングス
WEB広告業界に新展開 大型経営統合の謎
キャッシュレスによる 需要喚起効果への期待
“小売の革新者”の試行錯誤 アマゾン食品・飲料ストアの10年
[PR] “たばこを吸う人も吸わない人も” たばこライフスタイルブランドjouzの提案