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2019年03月号

営業の達人

モノを売る極意とは

「どうすれば〝売れる〟のか?」

これはあらゆる企業にとって最重要の課題だ。

体力勝負・根性一徹・頭より足を使い、いくらお客に嫌がられてもめげずに食い下がり契約を勝ち取る。高いインセンティブ、高い離職率……。ブラックなイメージがつきまとう仕事でもある「営業職」。

しかし、本当にそうだろうか。働き方改革で労働時間は短縮傾向にあり、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)をはじめ、テクノロジーを駆使して生産性を向上させる「セールステック」も盛んだ。営業の現場は移り変わり、求められる人材も多様化した。

しかし、これは一筋縄ではいかなくなったという意味でもある。社員・管理職・そして経営者も、今こそ改めて「営業」という仕事の本質に立ち返るときだ。

 営業職とは何者か

営業は企業の売り上げに直結する仕事であり、書店には数々のハウツーを伝授する「営業本」が並ぶ。しかし『営業部はバカなのか』『営業力100本ノック』などのヒット本の著者・北澤孝太郎氏は、営業活動のなかでハウツーは戦術のほんの一端だと言い切る。

「営業マンにとってもっとも必要な要素は『自分は何者なのか』をはっきり持つということです。そうでないと、単なる『売り子』になってしまいます」

個人的な「自分はどう生きたいのか」という思いを自覚し「自分が働く企業は社会の中で何を為したいのか」というビジョンと重ね合わせる。ぴったり重ならなければ、抽象度を上げて統合していく。

「自社への忠誠心ということとは、少し違います。クライアントや売れ筋商品を深く知り、会社の理念・歴史が自分の人生と交差するまで思索を積み上げるということです」

もちろん、そんな面倒な作業をしなくても商品を売りに出かけることはできる。しかし「トップセールス」と呼ばれる営業マンたちに取材すると、みな「自分は何者か」を言葉にし、あるいは口に出さなくても強く表現していることに気付く。そこに「売り子」と「営業」の仕事の質の違いが表れている。

「お客様が求める商品を最適化して届ける『売り子』と違い、営業マンはお客様からすればどこの馬の骨ともわからない奴がどんどん来るわけです。そこで、あまたのライバルを抜いて『こいつと付き合ってみたい』と思わせることが一番の仕事。ここで、自分のあり方を突き詰めて考えているかで差が出ます。簡単なことではないでしょうが、『俺たちはこういう存在なんだ』と自信を持って話すことができれば、お客様が共感し、何かを託してみたいという気になるからです」

特に対面営業では、言葉遣いや顔色の変化といった営業マンの態度の細部がビジネスの局面に影響することがある。目の前の営業マンが表面的に装っていれば、顧客はしっかりと見抜くだろう。なかでも重要な態度が「当事者意識」。それは顧客企業の課題に強く感応する力であると同時に、顧客企業から自社への共感を呼ぶ力だ。その力はまず自分の会社が社会にとってどんな存在でありたいかを考え抜くことで少しずつ身についてくる。

きたざわ・こうたろう 1962年生まれ。神戸大学卒業後、リクルート入社。2005年日本テレコム(現ソフトバンク)に転職、執行役員法人営業本部長、音声事業本部長を歴任。現在は東京工業大学大学院 特任教授、レジェンダコーポレーション取締役。優れた営業戦略・戦術を導く「北澤モデル」は多くの企業で活用されている。『営業部はバカなのか』(新潮新書)『営業力100本ノック』(日経文庫)など著書多数。http://kotaro-gosodan.com

ハウツーより「あり方」を

「『営業』という言葉は『業を営む』と書き、『なりわい』という意味。つまり企業活動=ビジネスそのものを指しているのです。実際『商人(あきんど)』という昔ながらの職能は、顧客価値創造・マーケティング・売ることを分けて捉えていません。営業は社員一丸となって行う総力戦で、『営業職』はそれを最前線で体現する仕事。つまりビジネスのすべてを司る中心的な存在なのです」

戦後から高度経済成長期を通じて、日本企業の中で社内の仕事の分業化が起こった。過去のことを考えず、経済を豊かにするためにガムシャラに働けば幸せになれるという労働観は、バブル期にリクルートが行った「新卒1000人採用」に代表される、無尽蔵に労働力を投入する人海戦術と「売り子」的営業マンを生み出した。

「やっといま、日本の社員が主体的に企業活動を考えられる時代になりました。一方で、盲目的に頑張るだけでは成果を得られない人も出てくるという時代ですが。

日本という国家そのものが国際的なあり方を示すために、自ら立ち位置を考え、戦略的にふるまわなければならなくなったようにです。

これからの仕事は、『自分がどう生きたいか』を磨いていく時代に入ります。自分という主体を持ち、体系立てて構造をつくって、必要な知識と顧客価値を用意し、価値基準をコントロールしたうえで戦略を考え、戦術に落とし込む。特に戦術をつくる部分は非常に難しい。

ノーアウト満塁で9回裏、1点もやれない場面のピッチャーだとすると、三振をとることが戦略。どんな球を投げるかが戦術です。球が重いのか軽いのか、球速はどのくらいかで戦術は変わります。そのリアリティは、過去にどんな球でどんな結果になったのか事細かに分析しなくてはならない。ものごとを突き詰めるという姿勢がもっとも大事であって、ハウツーではないんですよ」

トップセールスは成功と同じくらい失敗をよく覚えている。しかも失敗談が際立って面白いことが多い。成功の裏に失敗が役立っているからだろう。大学で営業戦略・組織の授業を受け持つ教授でもある北澤氏は、営業社員の育成にあたる上司の心構えについてこう語る。

「上司の役目は、部下に機会を与えて結果を出させてあげることに尽きます。必ず成功させてあげることです。営業の最後の最後で粘りがなかったり、お客様に提案するべきタイミングを間違えたりといった失敗のすべては、成功したときにはじめて活きるからです。

営業力には大きく2軸あります。『打ち手のインパクト』と『商談マネジメント』です。営業の世界では、経験を積んだベテランでも新人に負けることがあります。この会社をなんとかしたいという思いが『インパクト』になって買い手の心を動かすわけです。『打ち手のインパクト』には本人の若さ(純粋さ)とセンスがけっこう関係します。しかし、それは長くは持続しにくい能力でもある。だから上司は部下の『インパクト』が頭打ちになってきたときに、コツコツ積み重ねた経験がものを言う『商談マネジメント』があるということを教えてあげないといけませんね。

そして上司自身も常に自己更新を怠らないでください。セールステックなどのテクノロジーへの知識も必須です。古いスタイルにしがみついていては、上司失格です」

営業職はストレスがたまる、精神的にきついと言われることは多い。自分が仕事にどんな気持ちで関わっているかを常に問われるため、仕事への思いがきわめて強く反映される職種だからだ。

トップセールスが語る営業の醍醐味はさまざまだ。大きなお金を動かすこともあるし、仕事の仲間を得ることも、ビジネスがなければ縁もゆかりもなかった相手を目の前で感動させることもできる。自分の知らない世界を見ることもできるだろう。それは自社とはまったく立場の違う会社と、お金のやり取りというシビ アな関係込みで、緊張感を持って付き合わなくては得られない経験であるはずだ。

次項からは、各業界を代表する「営業の達人」たちの生の声から、「モノを売る」という難しく、そして奥の深い仕事の心構えとスキルを考察してみたい。

2019年03月号 目次

試し読み
営業の達人
変化にさらされる証券業界 問われる対面営業の真価
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