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2019年03月号

変化にさらされる証券業界 問われる対面営業の真価

トップセールスの思考① 松下昌夫 大和証券本店 資産コンサルタント部 資産コンサルタント課長 次長

入社翌年に金融危機

証券会社の個人向け営業の主な仕事は、顧客に口座を開設してもらい、そこにお金を入れてもらうことだ。市場の知識や相場観などを幅広く身に着け、顧客のニーズを事細かに汲む洞察力も必要だが、もっとも重要な能力がひとつあるという。

「当社が扱う金融商品は無形で、ほかの証券会社さんも同じような商品を売っているわけです。さらにお客様もいくらでも情報収集できる時代ですから、私という人間を受け入れていただかなければ、お取引いただけません。つまり、信頼を構築することが営業マンの一番の仕事なのです。そういう意味で、証券営業はとても人間味のある仕事です」

そう語るのは、大和証券本店所属の松下昌夫氏。入社初年で同社の新人賞を獲り、その後は半年に一度、業績に大きく貢献した社員に与えられる「社長賞」を毎回必ず受賞し現在に至るというエース営業マンのひとりだ。しかしそのキャリアはすさまじい悪路から始まった。

「私は2007年入社で、翌年にリーマンショックが起きたのです。正直に言って、びびりました。良かれと思ってお客様にお勧めした銘柄の多くが値下がりし、決算翌日に2~3割も大幅下落した外国株もありました。お客様に電話をかけることすら怖くてしかたなかった」

100年に一度の暴落と語り継がれる危機のなかで、資金を失った顧客も混乱していた。出向いて謝れば罵声を浴びせられ、名刺を破かれることもあった。しかし、いくら責められても、損失の埋め合わせなど、できないことは断らなくてはならない。たとえ年齢が倍以上離れた相手であってもだ。

「当時の配属は宇都宮支店。慰めてくれる友人もいない土地でした。辛くて泣きそうな日々でしたが、よく謝りに同行してくれた上司から教えられたのは『逃げてはいけない』ということです。経営者・医師・弁護士・地主の方、どんなお客様でも、信頼を得るための根本は逃げないこと。逆境にさらされたときの立ち振る舞いにこそ、営業マンの真価が問われるのだと」

逃げないことは、シンプルだが本当に難しい。多くの同僚が辞めていくなか、マーケットに背を向けず、誠意を尽くして顧客に謝ると腹をくくった。その覚悟は、いまも松下氏の営業哲学の核となっている。

「のちに宇都宮から東京に転任することになったとき、リーマンショック時に特に激しいお怒りの言葉をいただいたお客様にご挨拶に伺いました。そのとき『一番逃げなかったのはお前だったよ』と言ってもらえたんです。初めて嬉し涙を流してしまいましたね」

「大和証券のモチベーターになりたい」と松下氏。

 ネット証券の台頭で激変甚だしい証券業界だが、対面営業が生む価値は色あせていないようだ。

東京エリアに転任した松下氏は、現在プレイングマネージャーとして部下たちを育てる立場にある。

「『株屋』と称され、売買手数料で収益を上げていた時代とは異なり、いまの証券会社は債券・投資信託・ファンドラップ・保険など無数の金融商品を揃えてお客様のニーズに対応しています。それでも残念ながら、全員が儲かることはありえません。だからこそ値下がりにも愚直に対峙しようと部下に教えています」

そして、逆境はいつでも突然に訪れる。奇しくも本記事の取材当日は2018年12月26日。6日前から株価が急落し、日経平均はわずかに反発しながらも1万9327円06銭まで落ちていた。まさに松下氏は逆境のさなかにあった。

「このようなマーケットが急落したときこそ、証券業界全体が問われているのです。いま私が部下に繰り返し伝えているのは、いつもの2倍・3倍、お客様に連絡しようということです。たとえ電話を控えるよう言われている時間帯であっても、留守電がひとつ残っているだけで気持ちは違います。

そのうえで、楽観的でも悲観的でもなく、自分自身のマーケットへの意見を伝え、お客様に判断してもらおうと。会社やアナリストの考えを引き写すだけではダメです。大和証券の誰もが金太郎飴のように同じことを言うのでは、当社の魅力はなくなってしまいます。自分の考えが正しいかは結果論ですが、あらゆる情報を仕入れられるこの時代に担当をつけてもらっているのですから、お客様は担当の意見を聞きたいのです。入社1年目でも10年目でも関係ありません。怖ければ私も一緒に行くから、逃げずにお客様と向き合おうと」

証券営業は常に変動する株価に振り回され、不安が尽きない仕事とも言える。それだけに顧客が儲かったときの喜びは格別だ。そして松下氏には最近、新しい目標ができた。部下に社長賞を受賞させることだ。

「私にとって営業とは、常に変化を求められて、自らを表現する場所。かつ、一度その魅力に気が付いたら虜になってしまう仕事です」

2019年03月号 目次

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