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2019年04月号

まちがいだらけの人工知能

人間vs人工知能?

人工知能=AI(Artificial Intelligence)。昨今よく聞く言葉だ。広く世に知らしめたのはスティーブン・スピルバーグの大ヒット映画「A.I.」(2001年)だろうか。同作は人間に捨てられた少年型ロボット・デイビッドが、持ち主の愛を求め世界をさまよう物語だ。

感情と知性を備えたロボットは天敵としても描かれてきた。映画「ターミネーター」(1984年)では人工知能「スカイネット」が率いるロボット反乱軍と人間が殺し合う2029年の未来戦争が描かれる。

そんなAIがいま空前のブームだ。GAFAなどIT企業や研究機関がこぞって開発し、スマホやスマートスピーカーに搭載され、画像の意味を見分け、人間の言葉を理解し、応答する。囲碁を打つ人工知能「アルファ碁」は人間のプロに勝ち、自動車が運転できるAIもあるという。 ソフトバンクの「ペッパー」も、ソニーの「アイボ」も、ロボット掃除機「ルンバ」もAI。いつかルンバも人間に反乱を起こすのか?

人工知能学会の浦本直彦会長はこう語る。

「AIが映画に出てくるようなロボットのことを指すというのは代表的な誤解のひとつです。現在のAIは人間が作り、動かすソフトウェアやハードウェアであり、人間の道具です。AIは何かをする主体ではありません」

人工知能学会 浦本直彦会長。同学会は1986年設立の歴史を持つ。

では、いまAIがここまでもてはやされる理由は何か。本特集ではブームによってつくられた誤ったイメージを整理し、正しい認識とその活用を紹介する。実際、現状の世間のAIの認識はまちがいだらけだ。

(なお本誌ではAIを道具と位置付けるが、定義は研究者によって異なることをお断りしておく)

AIはロボットではなく研究分野の名前だ。60年以上前から「人間の脳を機械で模倣する」研究が行われており、ブームが来ては去っていった。浦本氏によれば現在のAIブームは3度目だという。

「今回のブームの特徴は社会への活用の広がりです。いままでは国の研究機関やIT企業が取り組んでいたのですが、さまざまな業種に影響が波及しています」

いままで先端研究の賜物だったAIがいよいよ社会に普及し、IT分野を飛び出して社会に普及する段階に来ている。浦本氏は三菱ケミカルホールディングス所属であり、人工知能学会では初の産業界出身の会長。このことも時代を象徴している。

AIは脳を模倣すると言っても自意識を持つわけではない。学習・認識・推論などの知的な活動を行うものだ。チャットボットで窓口業務を支援し、工場で機器の故障を予知するという具合だ。

そこで不安が生まれる。AIで代替される仕事が増えれば、人間はどうやって生活するのか?

「学会にも『AIに仕事が奪われるのではないか』という疑問が多く寄せられます。

まず、AIは人間がつくって人間が運用するので、すぐに人間の代わりができるものではありません。そして今回のAIブームはRPA・自動化・デジタルフォーメーションと不可分です。いま金融業界などが人員削減を行っていますが、これもAIというよりデジタル化とITの進化による事務作業の自動化などによるもので、AIそのものが人間を駆逐しているわけではありません」

銀行業では2000年代から本格的にATMが導入され、現金の受け渡しを行う銀行員は用無しになるかと思われたが、実際はセールスやカスタマーサービスなどの高度な業務が生まれ雇用が増えた。AI導入を含むデジタル化でもこうした質の変化を促すことができれば、人間は新しい仕事を得るだろう。

「19世紀の産業革命時に機械に仕事を奪われると恐れた労働者が機械を破壊した『ラッダイト運動』が起こりました。AI技術が、今後社会を変えていく力となることは確かです。しかし、ここでAIを正しく認識し、どのように活用すべきかを健全に議論すべきだと思います」

AI社会に参加する

これからAIは社会に広まり、誰もが取り組めるものになる。一部の人間に任せておけないという意味でもある。

「ELCI(ethical,legal and social implications=社会的・法的・倫理的課題)という概念があります。科学者はきちんとした倫理を持たねば社会発展を阻害するかもしれない。健全な普及のために、社会全体で議論が必要な段階に来ました。大事な時期です」

実際、課題も多いという。

「たとえばAIを使った自動運転で事故が起きたとき、責任の分界点はどう決めるべきなのか。運転の品質はどう担保し、どう説明するのか。作る側と使う側の議論が求められています」

AIを遠ざけるより積極的に知り・関わることで、良い未来を後世に残さなくてはならない。

AIは何ができるのか、何ができないのか。どんな仕組みで知能を模倣し、有効な使い道は何なのか。次項からはQ&A方式で基礎を噛み砕いて説明していく。AIが生活に組み込まれようとしているいま、私たちもAIへの認識を改めよう。

いまのAIブームも、人間とテクノロジーのたゆまぬ衝突と調和の歴史の一部なのだ。

2019年04月号 目次

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